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行政代執行法の第1条と第2条|条例を根拠に代執行できるのか?

行政法を勉強するうえで、難しくて頭を抱えやすい分野の一つが行政代執行法です。行政書士試験や公務員試験でも、第1条や第2条を中心に出題される可能性があります。

今回の記事では、行政代執行法第1条や第2条に焦点を当てつつ、手続きの流れを紹介します。代替的作為義務の意味や条例との関わりについても押さえましょう。行政書士試験および公務員試験を受験される方は、ぜひ記事を参考にしてください。

 

行政代執行法1条と2条

行政代執行の内容についてわかりやすく示した図

行政代執行とは法律や行政庁の命令を守らない住民に対し、行政庁が代わりに義務を履行したり、費用を徴収したりする行為です。

例えば住民Aが公園に「ここは俺の土地だ!」と書かれた立て札を設置しました。行政庁はAに対して立て札を取り払うように命じたものの、義務を全く履行しません。

このケースにおいて、行政庁は住民Aの代わりに立て札を除去できます。本来Aがすべき行為は、他人が代わりにしても問題ないからです。

また職員がわざわざ現地に赴き、立て札の除去作業するには少なからずコストがかかります。もちろん行政が肩代わりする必要性はなく、住民Aから費用を徴収できます。

行政代執行法第1条

行政代執行法第1条で規定されているのは、義務の履行確保の適用範囲についてです。

行政が国民に対して強制手段を採ることは、「行政上の強制執行」と呼びます。行政代執行もその一つですが、ほかには直接強制、執行罰、強制徴収などがあります。

行政上の強制執行 内容
直接強制 相手が義務を履行しない場合、
身体や財産に実力行使して、
義務の内容を直接実現する
執行罰 あらかじめ過料を予告し、
義務が履行されなかったら徴収する
強制徴収 支払われていない金銭について、
国税徴収法に基づき徴収する

 

これらの手段を講じ、住民から金銭等を徴収するには、法律の根拠を必要とします。とはいえ行政の活動は幅広く、根拠を見出だせる法律がないこともあるでしょう。

この場合において、金銭等を一切徴収できなくなるのは、抜け穴を作る要因にもなります。そこで行政上の強制執行における一般法として、行政代執行法が用意されているわけです。

行政代執行法第1条で示されているのは、あくまで「法律」です。したがって「条例」は、行政上の強制執行を行う根拠にはなりません。代執行も、条例を根拠にすることは認められないので覚えておきましょう。

行政代執行法第2条

行政代執行法第2条では、代執行の要件について定められています。こちらは条文が長いので、いくつかのポイントに分けて説明しましょう。

代替的作為義務が対象

代執行が認められるのは、代替的作為義務です。第三者が代わってでき、かつ積極的な行為でないといけません。先程も例に出したように、住民が勝手に設置した立て札を代わりに取り払う行為が、代替的作為義務に該当します。

一方で健康診断を受けない人に対しては、行政の代執行は認められません。健康診断はその人の体に関する診断であり、誰かが代わりにできるものではないからです。

同じく営業停止義務についても、代執行ができません。営業停止は不作為にあたり、「〜をしない」ように義務付けることです。そもそも行政が営業しているわけではないので、代わりに営業停止できるはずがないですね。

作為と不作為や少々ややこしいですが、しっかりと区別できるようにしてください。

義務が何で命じられているか

行政代執行をするには、相手方に特定の義務が命じられていなければなりません。この義務の内容は、大きく以下の2種類に分けられます。

  • 法律(命令・規則・条例も含む)で命じられるケース
  • 行政庁が命じているケース

行政代執行法第2条では、法律のみならず命令・規則・条例で命じられたものも対象にしています。この場合、個別法の委任に基づくかどうかは問いません。

行政上の強制執行の根拠について定めた、行政代執行法第1条と非常に混同しやすい部分です。第1条と第2条の規定をしっかりと区別すべく、条文にも目を通しましょう。

他の手段で履行を確保できない

行政代執行は常に認められるわけではなく、他の手段で履行を確保できないといった要件も必要です。もし住民Aが公園に立て札を設置しても、まずは本人に対して義務を命じるのが先です。その間にAの親族が除去してくれるなら、代執行は基本的に不要でしょう。

しかし住民Aが義務に応じず、他に除去できる人がいないときは、他の手段では立て札を取り払えません。そのため代執行を行使して、行政が代わりに作業する形となります。

さらに「他の手段で履行を確保する」とは、あくまで直接的な行為を指します。行政罰(罰則)として罰金や過料を請求できる場合でも、「他の手段」には該当しないので、行政は問題なく代執行ができます。

不履行の放置が著しく公益に反する

代執行が認められるのは、不履行の放置が著しく公益に反するときです。公園に立て札を立てられると他の利用者にも邪魔になりますし、刺さり方が悪くて倒れてきたら危険です。

このように公共を害するケースにおいて、行政の代執行が認められます。試験対策としては、この部分はサラッと読み流しても問題ありません。

 

行政代執行の手続きの流れ

行政代執行法第3条以降は、手続きの流れについて示されています。主な流れは以下のとおりです。

  1. 文書で戒告する
  2. 証票を携帯・提示する
  3. 費用を徴収する

各プロセスについて、条文と併せて解説しましょう。

①文書で戒告する

何度も説明しているとおり、代執行をするには相手に義務を命じないといけません

行政はまず相当の期限を定め、「この日までに義務が履行されないときは、私たち行政が代執行するぞ!」と文書で戒告します(第3条1項)。

戒告後も応じないのであれば、今度は代執行令書によって通知します(第3条2項)。代執行令書には代執行を実施する日付や担当者名、代執行にかかる費用が書かれています。

なお行政側のミスにより、代執行の要件を満たしていないケースもあるかもしれません。そのため戒告や代執行令書は、基本的に取消訴訟の対象となります。

非常時や危険が迫っている場合において、戒告をする暇がないときは第1項と第2項の手続きを省くことも可能です(第3条3項)。

②証票を携帯・提示する

代執行のために現場へ赴いた担当者(執行者)は、証票を持ち歩かないといけません。本当に行政の人間であるか、客観的に証明するためです。

もし証票の提示を求められたら、その要求にも応じる必要があります。法律上は「いつでも提示しなければならない」となっているため、基本的に断るのは厳禁です。

③費用を徴収する

行政代執行法第6条では、「代執行に要した費用を徴収できる」と定められています。費用の徴収の根拠となるのが、国税滞納処分の例です。徴収した費用については、国庫や地方公共団体のお金となります。

ちなみに行政庁は、代執行に要した費用について先取特権を有するのも特徴の一つです。義務を履行すべき住民が借金を抱えていても、行政庁は一般債権者に優先して費用を確保できます。

先取特権の内容に関しては、以下の記事で詳しくまとめているので併せて参考にしてください。

 

略式代行の仕組み

ここからの内容は、行政書士試験には出てきません。しかし少し変わった知識を知っておくと、視野が広くなるので勉強が頭に入りやすくなるといったメリットもあります。行政代執行以外の方法である、略式代行について紹介しましょう。

略式代行の目的

行政代執行が実施される際には、問題となっている人物(建築物の所有者など)に戒告しなければなりません。しかし目的物の中には、所有者が不明な事例も少なくありません。

例えば、所有者が不明なまま放置されている空き家が該当します。代執行をしようと思っても、戒告や代執行令書が送れなければ手続きできなくなります。

そこで採られているのが、略式代執行です。略式代執行は空き家対策特別措置法の規定に基づく手法であり、空き家に対して行政が職権で除去できるのがポイントです。仮に所有者が判明せずとも、行政代執行と同じような効果が働きます。

略式代執行の費用負担

通常の行政代執行であれば、費用は所有者が負担しなければならないと説明しました。一方で略式代執行となると、所有者が不明なので支払う人が誰もいません。

したがって略式代執行の費用については、行政がとりあえずは負担します。しかし代執行が完了したあとに、所有者が判明することもあるでしょう。その際には、改めて所有者が費用を負担する形となります。

代執行は空き家も対象になる

ここまで説明したとおり、建物を長期間放置し続けていると、略式代執行の対象になる可能性があります。特に空き家が増えるケースとして多いのが、相続を巡るトラブルです。

2024年から登記のルールが変わり、相続登記を放置した人には秩序罰である過料が課されるようになりました。そのため所有者不明の状態になるのは、年々少なくなるのが予想されます(わずかな変化かもしれませんが)。

空き家があちこちで放置されると、日本全体の土地もどんどん狭くなってしまいます。建物の腐朽により一部が崩れたら、近くを通りかかった人がケガを負うかもしれません。

行政や住民の迷惑にならないためにも、建物を相続したら売却等の手続きを済ませるようにしましょう。

 

行政代執行法のまとめ

行政代執行法において、まず優先して覚えるべき条文が第1条と第2条です

行政執行法第1条では、行政上の強制執行の一般法になることを示されています。代執行を含め、強制執行するときは法律を根拠にしなければなりません。条例は根拠にできないので注意が必要です。

次に行政執行法第2条には、代執行できる要件が定められています。特に代替作為義務および義務が命じられていることを押さえてください。義務が条例によって命じられたとしても、代執行は可能です

代執行の流れは細かく問われる機会が少ないとは思いますが、行政書士試験のテキストには記載されています。併せて覚えてしまったほうが、試験に出題されても対応できるでしょう。