義務を履行すべき人間が何もしないとき、行政上の強制執行手続きが採られます。これらの手続きは、行政書士試験・公務員試験においても押さえたい内容の一つです。
この記事では、行政上の強制執行の種類について紹介します。行政書士試験や公務員試験の受験生は参考にしてください。
行政上の強制執行とは
行政上の強制執行とは、行政に関連する義務を履行しない人に対し、強制的に義務を履行させる手続きです。履行のあった状態と同じくする目的があります。行政上の強制執行には、以下のような種類が挙げられます。
- 行政代執行
- 行政上の強制徴収
- 執行罰
- 直接強制
これらについて詳しく解説しましょう。
行政代執行
行政代執行とは、行政上の義務を履行しない者に、行政が代わりにする義務履行を確保することです。
例えば、ある人物が行政の許可を得ず、簡易的な建物を建てたとしましょう。建物を壊すように命じたものの、相手は一切それに応じません。
こうした場合において、行政は代わりに建物を壊せます。行政代執行については、以下の記事でも詳しく解説しているので参考にしてください。
行政代執行法の第1条と第2条|条例を根拠に代執行できるのか? - 【資格の教室】ヤマトノ塾
行政上の強制徴収
行政上の強制徴収とは、金銭を強制的に徴収する手続きのことです。国税徴収法に基づくのが特徴であり、一般的には国税の徴収に適用されます。
例えば所得税を全然納めない人がいました。その人に対して税金を徴収し、納税の義務をしっかりと行使させます。
国税以外の金銭にも適用したいのであれば、法律に「国税滞納処分の例による」と記載しなければなりません。
執行罰
執行罰とは、義務を履行しない者に対して過料を予告することです。間接強制の種類の一つとして挙げられます。とはいえ執行罰が適用されるケースはほとんどなく、例は砂防法36条しかありません。
執行罰の特徴は、刑法の重要な考え方である「二重処罰」を適用しないことです。刑法では、同じ人に同じ罪で罰する二重処罰が禁止されています。
したがって本来の刑罰では、万引きをした人に罰金を2回以上加えられません。一方で秩序罰は二重処罰の適用がないので、同じ人に対して2回以上過料を予告できます。
直接強制
直接強制とは、義務を履行しない者に対して、身体や財産に直接実力を行使する方法です。不法入国している外国人を強制送還させるケースが該当します。
しかし直接強制は人々の権利を著しく侵害する可能性も高く、一般的な根拠となる規定が存在しません。したがって行使する際には、個別の法律の根拠が求められます。
民法にも直接強制や間接強制といった考え方があります。これらの違いをおさらいしたい方は、ぜひ以下の記事も参考にしてください。
債務不履行の履行遅滞と履行不能とは?強制執行についても解説 - 【資格の教室】ヤマトノ塾
行政上の強制執行と行政罰の覚え方
行政上の強制執行に似ている言葉として、行政罰があります。これらを混同してしまう人も少なくありませんが、別の手続きとして覚えないといけません。
区別する際のキーワードとして、「過去」「将来」を押さえておくとよいでしょう。
行政上の強制執行の目的
行政上の強制執行の目的は、将来にすべき義務の履行を強制的に確保することです。今は全く義務が履行されていないため、現在の状況を改善する(元通りにする)といった役割があります。
直接強制で挙げた外国人の不法入国についても、本来その人物は日本にいるべきではありません。したがって強制送還させて、日本にいない状態を作っています。
強制徴収も行政罰と似ていますが、こちらはあくまで納められていない国税を回収するのが目的です。つまり、きちんと納めた状態にする働きを持ちます。
行政罰の目的
行政罰の目的は、過去に義務の履行をしなかった者に対して制裁を加えることです。義務の履行を確保させるのではなく、「責任を取りなさい」といった意味合いを持ちます。
行政罰には、大きく分けて行政刑罰と秩序罰があります。行政刑罰は、刑事訴訟法の手続きによって刑罰(死刑〜科料)を科す方法です。一方で秩序罰は軽いペナルティであり、過料を科すのが特徴です。
科料と過料の違い
科料と過料の違いは、刑罰に含まれるかどうかで判断します。科料は刑罰であるため、科されたら前科がつきます。一方で過料は刑罰に含まれず、科されたとしても前科はつきません。
法律では、漢字の違いによって意味が大きく変わることもよくあります。行政書士試験は記述試験も出題されるため、漢字のミスで減点されないように注意が必要です。
行政上の強制執行の種類一覧
最後にまとめとして、行政上の強制執行の種類を一覧形式で紹介しましょう。
行政上の強制執行 の種類 |
特徴 |
---|---|
行政代執行 | 行政が代わりに 義務を履行 |
行政上の強制徴収 | 主に国税の徴収 |
執行罰 | 義務を履行しない者に 過料を予告 |
直接強制 | 身体・財産に直接 実力行使して義務を履行 |
行政上の強制執行の覚え方として、「将来」をキーワードにしてください。将来すべき義務の履行を確保させるのが、当該手続きの狙いです。
このように覚えておけば、過去の義務履行違反に対するペナルティである、行政罰と上手く区別できるでしょう。