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株式買取請求権とは?行使できる・できない条件をわかりやすく解説

行政書士試験の会社法では、株式買取請求権の範囲が出題されることもあります。ただし内容があまりにも専門的であり、理解しにくいと感じる人もいるでしょう。

この記事では、行政書士試験に一発合格した筆者が、株式買取請求権についてわかりやすく解説します。行政書士試験を受験される予定のある方はぜひ参考にしてください。

 

株式買取請求権とは

株式買取請求権の仕組みをわかりやすく説明している図

株式買取請求権とは、会社や株主に重要な影響を与えることに反対する株主(反対株主)が、会社に自身の保有する株を買い取るよう請求する権利です。

本来、株主の持っている株を会社に買い戻させるのは認められていません。ただし会社が経営について大きく方向転換したとき、株主の中にはその決定に反対する人もいるでしょう。

特に少数株主であれば、反対しても議決権が少ないため、会社の決定にあまり影響を与えない可能性も少なからずあります。そこで特定の条件を満たした場合は、例外的に株式買取請求権が認められています。株式買取請求権は、少数株主を守るといった目的が強いことを押さえてください。

 

株式買取請求権を行使できる条件

反対株主から株式買取請求権が認められるには、以下の条件を満たす必要があります。

  1. 株式譲渡制限の定め
  2. 全部取得条項付種類株式の定め
  3. 種類株主総会の省略による損害
  4. 組織再編行為が見られた
  5. 単元未満株主である場合

それぞれの条件について、詳しく見ていきましょう。

株式譲渡制限の定め

会社の発行している株のすべてに、譲渡制限の定めを設ける場合は株式買取請求ができます。譲渡制限とは、株の売買に会社の承認を必要とすることです。

株式譲渡制限について定めるには、株主の多数決で決められるとします。総株主の同意は不要となるため、少数の反対株主にも投下資本回収の機会を与えないといけません。したがって株式買取請求が認められます。

全部取得条項付種類株式の定め

全部取得条項付種類株式とは、株主総会決議によって会社がすべて取得できる種類株式です。株主総会は特別決議によりますが、個々の株主の同意は必要ありません。

買収者が株を取得したとしても、特別決議で会社が取り返せるのがメリットです。ほかにも少数株主から、株を回収する目的でも発行されます。

とはいえ全部取得条項付種類株式の定めも、株式譲渡制限と同じく多数決によって決まってしまいます。反対株主を保護する必要がある観点から、株式買取請求が認められます。

種類株主総会の省略による損害

種類株主総会の省略により、損害を与えたときも株式買取請求権を行使すること可能です。種類株式は配当や議決権などの内容が異なる2種類以上の株式であり、当該株式を持つ者は種類株主と呼びます。

種類株主の株式買取請求については、会社法第116条1項3号に行使できる要件が記載されています。

  1. 株式の併合、株式の分割
  2. 株式無償割当て
  3. 定款の変更
  4. 株式の引受人の募集
  5. 新株予約権の引受人の募集
  6. 新株予約権の無償割当て

これらの要件については、そこまで具体的に覚える必要はありません。

組織再編行為が見られた

組織再編行為が見られたときも、株主に著しい損害を与える恐れがあるため、株式買取請求権を行使できます。具体的な行為として、以下を押さえておきましょう。

  • 事業譲渡
  • 合併・会社分割
  • 株式交換
  • 株式移転

わかりやすく言えば、A会社が着手していた事業をB会社にすべて委ねるといったケースが該当します。

単元未満株主である場合

単元未満株主であれば、株式会社に対して単元未満株式の買い取りを請求できます。株式は単元株での売買が原則であり、単元未満株主は十分に利益を受けられなくなる可能性が高いためです。

請求する際には、単元未満株式の数を明らかにしないといけません。種類株式発行会社の場合は、単元未満株式の種類および種類ごとの数です。一度請求をした単元未満株主は、株式会社の承諾を得たときに限り、請求の撤回が認められます。

 

株式買取請求できない条件

株式買取請求は、誰もがいつでも認められるわけではありません。会社法の規定を参考に、株式買取請求権を行使できないケースについて見ていきましょう。

反対株主でない

株式買取請求を行使するには、反対株主でなければなりません。議決権を行使するにあたり、反対の通知や投票をしていない人は請求する権利が認められないわけです。

一方で株主の中には、そもそも議決権を行使できない人もいます。この場合は、反対の通知または投票がなくても反対株主になることが認められます。

通知の送付期限を過ぎた

詳しい手続きは後述しますが、株式買取請求をするときは会社に対して通知を送付しないといけません。当該通知は、効力の発生する20日前〜前日と期限が設けられています。

期限内に提出できない株主を守る意味はありません。通知を出すのが遅れないためにも、基本的には株主総会に持っていき、反対投票をしたあとに請求するといった方法が採られます。

 

株主買取請求権の手続方法

株式買取請求権を行使するには、一般的に以下の4つのプロセスを踏む必要があります。

  1. 株式会社から通知をする
  2. 株主が会社に通知をする
  3. 株式の買取価格を決める
  4. 株主に代金を支払う

それぞれのプロセスで、どのような手続きが採られるかを詳しくまとめましょう。

株式会社から通知をする

定款の変更や組織再編行為などをする株式会社は、その行為の効力が発生する20日前に株主に通知しないといけません。吸収合併する際には、消滅会社等による株主への通知が必要とされています(会社法第785条3項)。

なお通知は、公告に代えることも可能です。

株主が会社に通知をする

上述したとおり株主は、効力発生日の20日前〜前日まで株主買取請求をする必要があります。請求するときは、株式の数(種類株式は株式の種類および種類ごとの数)を明らかにしなければなりません。

さらに株券発行会社の株主は、株式買取請求をするにあたり株券の提出も必要です。なお株主買取請求は、株式会社の承諾があったときに限り撤回できます。

株式の買取価格を決める

株式買取請求権を行使する中で、株主と株式会社の間で価格が決まらないケースも考えられます。効力発生日から30日以内に決まらないときは、その期間の満了日以後30日以内に、裁判所へ価格決定の申し立てができます

つまり申し立ては、効力発生日から計算すると60日以内にしないといけません。申し立てはあくまで任意であり、しなかったからといって株式買取請求権自体が失うわけではありません。

しかし裁判所が価格決定に関与しない以上、会社が決定した金額で買い取られる可能性があります。要するに価格決定の申し立て期間に間に合わないと、満足のいく金額で取引できなくなる確率が高まるわけです。

株主に代金を支払う

裁判所が価格を確定させたら、会社は株主に対して代金を支払います。その際には株式買取請求の効力発生日から60日の満了の日以後に発生した、法定利率による利息も払わないといけません

加えて株式の価格が決定するまでは、会社側が公正な価格を支払うことも認められます。

 

株主買取請求権のまとめ

株主買取請求権は、誰もが自由に行使できるわけではありません。譲渡制限の定めや組織再編行為など、さまざまな条件を満たす必要があります。

株主買取請求権の手続きがなされるには、会社側も株主に通知するなどの対応をしなければなりません。こうしたプロセスも押さえておくと、行政書士試験の勉強にも役立ちます。