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東大ポポロ事件とは?最高裁判決についてわかりやすく解説

行政書士試験や公務員試験のみならず、高校の政治経済でも習う有名判例の一つが東大ポポロ事件です。しかし名前こそインパクトがあるものの、事件の内容を覚えていない人もいるでしょう。

この記事では、東大ポポロ事件で下された最高裁判決をわかりやすく解説します。行政書士試験または公務員試験を受験される方は、ぜひ記事を読んでみてください。

 

東大ポポロ事件とは

※画像はイメージです

東大ポポロ事件は、学問の自由と大学の自治のあり方が争点となった事件です。私服警察官が調査で東京大学に潜入し、学生が取り押さえたことがきっかけとなりました。ここでは具体的な事案を見ながら、学問の自由についても解説します。

東大ポポロ事件の概要

東大ポポロ事件が発生したのは、昭和27年(1952年)2月20日です。この日、東京大学公認の学生団体である「ポポロ劇団」は、松川事件をテーマに演劇を上演していました。

この上演自体は東大側も認めていたものの、観客の中に私服警察官が紛れていました。そこで学生は私服警察官を取り押さえ、暴行を加えます。最終的に学生たちは起訴されたものの、彼らは学問の自由に反すると訴訟を提起しました。

松川事件の具体的な内容

松川事件(1949年)とは、戦後最大の冤罪事件といわれる国鉄東北本線の列車脱線・転覆事故です。カーブ地点で突然列車が脱線したのですが、その部分の線路でボルトとナットが緩められていることが判明します。

この事故で3人が亡くなり、容疑者として合計20人が逮捕されました。一審判決では有罪20人(5人が死刑判決)、二審判決では有罪17人(4人が死刑)と判断されます。

しかし裁判を進めていく中で、自白の強要やアリバイの事実を隠されるといった捜査機関側の不法行為が明らかになりました。結果的に20人全員の無罪が確定し、真犯人がわからないまま今に至っています。

松川事件は謎多きミステリー事件として取り上げられた一方で、警察や検察の不手際にも注目が集まった事件であるのが特徴です。

私服警察官が来ていた理由

私服警察官が演劇に来ていたのは、反植民地闘争デーの一環として東大で演劇発表がなされるのを聞いたためです。警備情報収集の目的で、一般人と同じく入場券を購入したうえで会場にいました。

学生運動がピークとなったのは1960年〜1970年頃ですが、当時から慢性的に似たような事件は起こっていました。実際に公演するにあたり、ポポロ劇団は資金カンパもしていたそうです。警察の間でも、こうした緊張感は常にあったといえます。

 

東大ポポロ事件と最高裁判決

東大ポポロ事件の各裁判例をわかりやすくまとめた図

次に東大ポポロ事件が、裁判でどう判決が下されたかを解説します。主に最高裁判決をまとめますが、一審や二審判決も併せて見ていきましょう。

一審判決と二審判決

一審判決では、学生側が勝訴(無罪)となりました。その理由は憲法には学問の自由が保障されており、警察の権力を持って干渉するのは望ましくないためです。特に大学の自治も確立されているので、自治運動も法律や規則を守っていれば許されるとしました。

検察側は控訴しますが、二審判決も基本的には一審判決と同じです。納得のいかない検察側は、さらに上告して最高裁判所で争われます。

最高裁判決=原審差戻し

最高裁判所判決(昭和38年5月22日)では、一審判決と二審判決の見解に反対しました。一審判決を破棄して、東京地方裁判所にもう一度やり直し(差戻し)を求めます。学生の行動の何が問題とされたのか、最高裁の見解を詳しくまとめます。

大学の教育および教授の自由

最高裁は、学問の自由には研究結果の発表の自由も含まれるとしました。これらの自由は深くすべての国民に対して保障されるとともに、大学にも当該自由を保障していると考えます。

教育および教授の自由は、学問の自由と密接な関係を持ちますが、必ずしもこれに含まれるわけではありません。しかし大学の教授や研究者が、自身の研究結果を教授する自由は保障されると考えました。

大学に通っていた人は、教授たちの自由あふれる講義を経験したこともあるでしょう。もちろん公共の利益の制限はありますが、大学の性質上ある程度は広く認められています。

大学の自治と学問の自由

大学の学問の自由を保障するべく、古くから大学の自治が認められています。大学の学長や教授、その他の研究者が自主的な判断に基づき、施設や学生を管理できます。

さらに学問の自由や施設の管理は、大学生にも当然に認められると最高裁は示しました。一般の国民以上に学問の自由を享有しており、自治的な管理に基づいて施設を利用することも可能です。

今回の集会における議論

大学における学生の集会も、学問の自由の範囲によって認められるとしました。しかし学問的な研究やその結果の発表だけではなく、政治的・社会的活動に当たる行為は、学問の自由と大学の自治は享有しないと判断します。

特にポポロ劇団の公演は、一般人の入場も許していた点から「公開の集会」とみなされるべきとしました。おまけに資金カンパがなされており、真に学問的な研究および発表を目的としていないだろうと結論付けたのです。

最高裁の結論とその後

以上を踏まえて、最高裁はポポロ劇団の公演が学問的な研究や発表を目的としたのではなく、単なる政治的・社会的活動と判断しました。加えて公開の集会といえるものであり、学問の自由や大学の自治は持ちません。

そのため警察官が立ち入ったとしても、学問の自由および大学の自治を犯すわけではないとジャッジします。結果的に差し戻された一審判決で有罪となり、被告人は懲役刑(執行猶予付)に処されました。

 

東大ポポロ事件の紛らわしい点

東大ポポロ事件で判決が下されたのは、国民一般において学問の自由(第23条)が保障されている点です。19条(思想良心の自由)や21条(表現の自由)で保障されているわけではありません

加えて今回の判決で争点となったのは、警察が公開の集会で任意捜査をするのが認められるかです。そもそも非公開であれば、令状がなければ立ち入りできません。ポポロ劇団は公開の集会と認められ、かつ学問目的ではなく社会運動の一環であったため、警察側に分がある判決となったのです。

 

東大ポポロ事件のまとめ

東大ポポロ事件は、学問の自由について争われたと押さえておきましょう。記事では一審判決から紹介しましたが、行政書士試験や公務員試験対策としては最高裁判決だけ押さえれば問題ありません

最高裁判決では、大学の自治のあり方とポポロ劇団の公演が公開の集会にあたるため、学問の自由の対象外となりました。単なる政治的・社会的と判断されたのもポイントの一つです。