企業の採用と雇用契約について争われた有名な事件が、三菱樹脂事件です。行政書士試験の勉強をする上では、三菱樹脂事件の判決を押さえておく必要があります。
この記事では、行政書士試験に短期合格を果たした筆者が、三菱樹脂事件の判決をわかりやすく解説します。私人間の人権保障とその限界についても触れてみるので、ぜひ憲法を勉強する際の参考にしてください。
三菱樹脂事件の概要

三菱樹脂事件とは、企業Y(三菱樹脂)と当該企業の採用試験に合格したXとの間で起こった事件です。Xは企業Yから採用合格の通知が届き、3ヶ月間の試用期間を経て働くはずでした。
しかし学生運動に参加していた経歴を虚偽申告したことで、試用期間が満了する直前に不採用と通告されてしまいます。当然ながらXは、Yの対応に不満を感じました。そこでXは企業Yに対し、契約上の地位の確認と賃金支払を求めて訴えます。
一審判決と控訴審では、Xの主張を認めて企業Yの対応が違法としました。この判決に企業Yは不服に感じ、最高裁へ上告します。
三菱樹脂事件の最高裁判決
三菱樹脂事件では、結果的に企業Yが勝訴する形となりました。つまり採用者が経歴を虚偽申告していたとき、試用期間が満了する前に不採用と通知してもよいと判断します。その理由について詳しく見ていきましょう。
間接適用説の考え方

まずは憲法に規定されている条文が、どのような形で私たちに効力を与えるかを判例は説明しています。結論を述べると三菱樹脂事件では、間接適用説を採用しました。
たとえば憲法第14条では、法の下の平等として私たちは差別されない旨が定められています。しかし憲法は、国や地方自治体と個人の関係を規律したものです。企業や個人のように、私人間の関係を規律するものではありません。
とはいえ私人同士の間でも、立場の違いから基本的人権が害される可能性はあります。そこで民法などの法律を作り、間接的に憲法の効力を反映させようと考えました。間接適用説は、ほかの判例でも出てくるので、意味も含めて覚えておきましょう。

たとえば憲法第25条の生存権は、生活保護法によって保障されているね!
思想を理由とする雇用の拒否
日本国憲法では、人々に対して経済活動の自由を保障しています。経済活動の自由は契約の自由を認めているため、企業が誰を雇うかを自由に決めても問題ありません。仮に思想や信条を理由に雇用を拒否しても、当然に違法とはいえないわけです。
なお労働基準法第3条では、雇用したあとに思想や信条を理由として、賃金等に差を設けてはいけないとしています。しかしこの規定もあくまで雇用したあとの話であり、雇用の判断基準にすることは禁じていません。
したがって思想を理由とする雇用の拒否は、民法の不法行為にもあたらないとしました。公序良俗を反するわけでもなく、原則として企業が自由に決められます。
企業による調査の違法性
最高裁判例では、採用者の思想や信条について企業が調査することもOKとしました。もちろん調査により、思想・信条の自由に悪影響が及ぶ場合もないとは言い切れません。
しかし一般的に企業は、労働者個人よりも上に立つ存在です。そのため労働者個人の思想や信条を調査するのは、合理的であるとみなされました。
試用期間後の雇用の拒否
日本において、企業が一度労働者を雇用したあと、解雇するのはハードルが高いといえます。最高裁判所も試用期間後の雇用の拒否について、通常時の雇用の拒否とは区別すべきと考えました。
とはいえ試用期間を設ける理由は、労働者が会社で働くにあたり、適した資質や能力を有するかを見定めるためです。採用時では判断材料が不十分であり、合理的な期間を設けて調査・観察する必要があります。つまり労働者との関係においては、解約解約権が留保されている状態です。
仮に会社で働く資質や能力がないと判断すれば、留保された解約権に基づいて解雇できます。この場合の解雇は、通常時と比べて広く認めるべきと最高裁も判断しました。
三菱樹脂事件への当てはめ
試用期間中といえども、労働者は会社と比べると力の弱い存在です。一度採用されたら、今後も一緒に仕事ができると思いこんでしまうでしょう。
そこで留保された解約権を行使するには、客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当と認められる場合に限るとしました。三菱樹脂事件においては、Xが学生運動に参加していたことを秘匿していたかを重視します。
その結果、最高裁は原審の判決に誤りがあるとして、審理を高等裁判所に差し戻しました。最終的に差戻し審では、Xと企業Yの間で和解が成立したようです。

和解といっても、企業と争ったXさんはかなりやつれていたとのこと
三菱樹脂事件のまとめ
三菱樹脂事件は、試用期間後に雇用を拒否された労働者と会社の争いであることを押さえてください。有名な判例の一つであり、行政書士試験でも狙われる可能性があります。結論部分に加え、判旨の重要な部分も押さえておくとよいでしょう。
この判例では、間接適用説の考え方が用いられています。憲法の勉強において、頻繁に出てくる用語であるため併せて覚えておきましょう。
間接適用説を用いた判例としては、ほかにも昭和女子大学事件や日産自動車事件が有名です。行政書士試験でも出題される可能性があるので、しっかりと復習してください。