刑法を勉強していると、併合罪という言葉がたびたび出てきます。仮に窃盗罪と器物損壊罪の双方に触れる場合、量刑がどのように計算されるか知らない方もいるでしょう。
この記事では、併合罪の計算方法と1.5倍の量刑の意味をわかりやすく解説します。刑法を勉強されている方は、ぜひ記事を最後まで読んでみてください。
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併合罪とは
併合罪とは、確定裁判を経ていない犯罪が2つ以上あることです。たとえばAが骨董品屋で壺を盗み、家に帰ったあとハンマーで壊しました。この場合は、窃盗罪と器物損壊罪の2つの構成要件を満たします。
ほかにも無免許運転をしていた者が、業務中に交通事故を起こしたとしましょう。当該ケースにおいても、無免許運転の罪と業務上過失致死罪が併合罪となります。
併合罪の量刑と計算方法
併合罪の量刑がどうなるかは、以下の3つの考え方があります。
- 吸収主義
- 加重主義
- 併科主義
それぞれの考え方について、どのように計算されるかを見ていきましょう。
吸収主義
吸収主義とは、一方の罪に他方の罪の科刑が吸収されることです。主な例として、死刑や無期懲役刑とみなされる罪が片方にある場合が該当します。
仮にAがBを殺害し、その遺体を山に遺棄した罪で起訴されました。このケースでは、殺人罪と死体遺棄罪が併合罪となります。
仮に殺人罪で無期懲役と判断されるのであれば、死体遺棄罪の量刑は殺人罪に吸収されます。したがってAは、無期懲役刑の判決が下されます。
加重主義
加重主義とは、有期の拘禁刑同士や罰金刑同士において、一方の罪に量刑を加算する方法です。たとえばAがBを監禁したうえ、お金を渡すように命令しました。この場合は、監禁罪と恐喝罪が併合罪となります。
監禁罪は、3カ月以上〜7年以下の拘禁刑に処される罪です。一方で恐喝罪は、10年以下の拘禁刑に処すると規定されています。
両者を比較した場合、より重い罪となるのは恐喝罪です。10年に対し、その2分の1となる5年を加えて、15年以下の拘禁刑に処すると考えます。
つまり重いほうの罪の刑期を、1.5倍するのが特徴です。併合罪における1.5倍の意味とは、加重主義の考え方に基づいています。
ほかにも罰金刑同士の罪については、各罰金刑の合計額が上限です。単純に50万円以下の罰金と10万円以下の罰金であれば、60万円が上限となります。

1.5倍の考え方は「加重主義」から来ているんだね
併科主義
併科主義は罰金や拘留、科料と他の刑罰を単純に加算する考え方です。たとえば、有期懲役刑の犯罪と罰金刑の犯罪をした者がいたとしましょう。
この場合は、有期懲役刑にそのまま罰金刑も科せられます。なお死刑については、罰金・拘留・科料のいずれも併科主義を科さないのが特徴です。
併合罪に似ている概念
併合罪に似ている概念として、観念的競合と牽連犯があります。併合罪をより詳しく知るために、観念的競合や牽連犯とどのように異なるか見ていきましょう。
併合罪と観念的競合の違い
観念的競合とは、1つの行為で2つ以上の犯罪が成立してしまうことです。たとえばAが公務を執行している警察官に対し、暴行を加えてケガさせました。
この場合は、公務執行妨害罪と傷害罪が同時に発生しているため、これらが観念的競合となります。観念的競合で科せられる刑罰は、2つ以上の罪名からより重いほうを採用します。
上記の例であれば、公務執行妨害罪は3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。一方で傷害罪の場合は、15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金に処されます。したがって採用されるのは、傷害罪の科刑のほうです。

行為自体は1つ!でも犯罪は2つ成立するのが観念的競合
併合罪と牽連犯の違い
牽連犯とは、ある犯罪を起こすための手段として用いられた方法が、別の罪名にも触れることです。たとえばAが詐欺をするために、文書を偽造しました。
この場合、手段として用いられた文書の偽造は、私文書偽造罪に該当します。牽連犯についても、より刑罰の重いほうを採用するのがポイントです。
詐欺罪は10年以下の拘禁刑、私文書偽造罪は3カ月以上〜5年以下の拘禁刑に処されます。したがって詐欺罪の10年以下の拘禁刑が採用されます。

詐欺罪の手段として私文書偽造罪が用いられたということ!
併合罪を詳しく勉強するには
併合罪は考え方が複雑であり、いまいち理解できない方も多いでしょう。そこで刑法の基本的な考え方を知るには、以下のテキストと問題集を読むことをおすすめします。
これらは司法試験用のテキストと問題集であるため、内容が難しいのではと感じるかもしれません。ただ筆者は多くの本を読んできましたが、早稲田経営出版のテキストは比較的読みやすいと感じています。
さまざまな本やテキストを見ていくことも重要ですが、何を読めばよいかわからない方は、ぜひ検討してみてください。
併合罪に関するまとめ
2つ以上の犯罪をした場合に、適用されうるのが併合罪です。併合罪にもさまざまな考え方があり、状況によっては1.5倍の刑罰が科せられます。
一方で観念的競合や牽連犯など、併合罪に似ているものの態様が異なる概念も存在します。刑法を勉強する際には、これらの違いについてしっかりと押さえてください。