日本国憲法において、検閲は禁止されている行為の一つです。この規定があるからこそ、私たちは自由に書籍を出すことが認められています。
この記事では行政書士試験に一発合格した筆者が、検閲の禁止についてわかりやすく解説します。公共の福祉との関係性にも触れていくので、行政書士試験などで法律を勉強されている方はぜひ参考にしてください。
検閲の禁止とは
検閲の禁止とは、行政権が主体となって書籍などが発表される前に、内容を審査するのを禁じることです。ここでは検閲の意味を詳しく説明しつつ、表現の自由や公共の福祉との関係についても見ていきましょう。
検閲の正確な意味
検閲の意味を正確に捉えるうえで、押さえておきたい用語は以下のとおりです。
- 行政権が主体となる
- 思想内容等の表現物を対象にする
- 全部または一部の発表の禁止を目的とする
- 網羅的・一般的に審査する
- 発表前に内容を審査する
- 不適法と認めたら発表を禁止する
行政権が主体となるため、裁判所が事前に審査しても検閲にはあたりません。行政書士試験でも、引っかけ問題で出されやすいので注意してください。
さらに検閲は、発表前の事前審査が該当します。すでに発表された書籍の表現が不適切であり、出版をストップする行為は検閲ではありません。勘違いしやすいポイントが多いため、これらを区別して覚えるようにしましょう。
表現の自由との関係
検閲を禁止している条文は、憲法第21条の表現の自由です*1。私たち国民は、誰もが自由に自分の意見を述べる権利が保障されています。政治を批判しても、脅迫や名誉毀損に該当しなければ刑罰を科せられることはありません。
政府が簡単に検閲ができるようになると、行政権による言論統制が認められてしまいます。こうした言論統制につながらないよう、あらかじめ憲法で検閲を禁止しているのです。表現の自由の詳しい内容は、下記の記事でも詳しく解説しています。
表現の自由で押さえたい判例!公共の福祉や検閲についても解説 - 【資格の教室】ヤマトノ塾
戦前で問題視された検閲
戦前までは、政府が当たり前のように検閲をする時代でした。特に有名な事件として、矢内原事件が挙げられます。
東京帝国大学の教授をしていた矢内原忠雄は、論文「国家の思想」を作成していました。この目的は、国家が強者の圧力から弱者を救うといった民主主義を主張するためでした。
しかし検閲によって論文は削除されて、矢内原忠雄自身も世間からバッシングを受けてしまいます。戦後も検閲を巡るトラブルはありますが、当時はそもそも憲法で禁止されておらず、このような悲劇は少なからずありました。
言論統制されたら政府に従うしかなくなる…
政府が暴走したり、政府寄りのマスコミが煽ったりして、国が間違えた方向に進みやすくなるから危険だね!
公共の福祉との関係
検閲の場合、公共の福祉を守るという目的があっても、絶対的に禁止されるのが特徴です。一方で検閲をより幅広く捉えた概念として、事前抑制があります。事前抑制は公権力が表現を規制する行為であり、行政権だけではなく司法も対象になるのがポイントです。
事前抑制も、原則として禁止されています。しかし検閲とは異なり、絶対的に禁止されているわけではありません。表現の内容が公共の福祉に著しく反する場合は、例外的に抑制することも認められています。
検閲の禁止に関する判例
検閲や事前抑制にかかる判例として、ここでは下記の内容を取り上げます。
- 北方ジャーナル事件
- 札幌税関検査事件
- 第一次家永教科書事件
それぞれの内容を押さえましょう。
北方ジャーナル事件
北方ジャーナル事件は、行政書士試験では優先的に押さえてほしい事件です。かつては多肢選択式で出題された過去もありました。事件の概要と最高裁の判例を簡潔に説明します。
事件の概要
北海道の知事選挙に立候補しようとしていたAは、ある日自分を誹謗中傷する記事が掲載されることを知りました。記事が掲載される媒体は、雑誌「北方ジャーナル」です。
そこでAは、裁判所に対して雑誌の発行を差し止めるように求めました。この差止めの仮処分が、憲法第21条に規定する「検閲の禁止」に触れないかが争われます。
最高裁判旨
最高裁は、司法による差止めの仮処分は検閲にはあたらないとジャッジしました。上述したとおり、検閲は行政による事前規制です。その上で司法の事前差し止めをどう捉えるか考えます。
ただし、司法による事前差し止めが必ずしも認められるわけではありません。裁判所が差し止めるのは事前抑制にあたり、「表現の自由を規制する力が強い」ため禁止されるのが原則です。
一方で最高裁では、「表現内容が真実ではなく、公益を図ることを目的としないのが明白で、被害者が回復困難な損害を被る恐れがある」ときは事前抑制が許されるとしました。北方ジャーナル事件は検閲ではなく、事前抑制に関する判例であると押さえてください。
札幌税関検査事件
税関検査とは本や雑誌等を輸入する際に、公序良俗を乱すものを禁じる規制です。この事件では、輸入が禁じられた書籍を巡って争いが起こりました。
事件の概要
Xは、外国より男女の裸体が掲載された映画フィルムや雑誌を輸入しようとしました。しかしこれらの書籍が、輸入禁制品に該当すると処分されてしまいます。そこで当該処分が検閲にあたると、Xは訴えを起こします。
最高裁判旨
結論をいえば、最高裁は税関検査が検閲にあたらないと判断しました。確かに税関検査は、行政権によって行使されています。
しかし今回の映画フィルムや雑誌は、すでに国外で発行されているものです。したがって検閲の条件である、「発表前に審査する」という要件を満たしていません。仮に国内で輸入を禁じても、発表の機会が奪われることはないわけです。
ほかにも税関検査は、国内の公序良俗を守る目的で行われています。著者の思想内容を審査し、規制を加えるものではありません。以上から検閲の要件を満たしておらず、税関検査は合憲としました。
第一次家永教科書事件
学校で使われている教科書は、発行する前に教科書検定を経なければなりません。しかし日本では、教科書検定が検閲にあたるのではと争われた事件があります。
事件の概要
家永氏は、高校日本史の教科書を執筆していました。しかし教科書検定に出したところ、323ヶ所欠陥があったと指摘を受け、検定に不合格となってしまいます。
後ほど合格はできましたが、発行までに1年間を要しました。そこで教科書検定が検閲に該当するため違憲であると主張し、政府を相手に訴訟を提起します。
家永教科書事件は、約32年間にもわたり訴訟が繰り広げられました。2022年にアメリカの訴訟が記録を抜くまでは、ギネス世界記録にも認定されていたほどです。
最高裁判旨
家永教科書事件の戦いは第一次〜第三次まで続きますが、ここでは第一次の最高裁判旨を見ていきましょう。結論としては、教科書検定は検閲の禁止に該当しないと判断されました。
あくまで教科書は、学校という特殊な空間で使われる図書です。検定に不合格だった場合、教科書には使用されなくなるものの、一般図書としての発行は認められます。
つまり教科書検定は、思想内容を網羅的一般的に禁じているわけではありません。以上から合理的かつ必要やむを得ない程度しか制限していないため、憲法第21条に違反しないと判旨されました。
検閲の禁止に関するまとめ
行政書士試験の憲法の中でも、検閲は極めて狙われやすい範囲の一つといえます。北方ジャーナル事件が多肢選択式でも出題されたことから、判例もしっかりと押さえておかないといけません。
また検閲を勉強するうえで、言葉の意味を正しく理解することも大切です。先程説明した6つのキーワードを、忘れずに覚えておいてください。
- 行政権が主体となる
- 思想内容等の表現物を対象にする
- 全部または一部の発表の禁止を目的とする
- 網羅的・一般的に審査する
- 発表前に内容を審査する
- 不適法と認めたら発表を禁止する
紛らわしい部分も多いですが、正答すればほかの受験生と差をつけられます。憲法の対策は難しいものの、検閲の内容は一通り目を通しておくのをおすすめします。