公務員試験や行政書士試験の民法では、不法行為の内容も狙われやすい分野の一つです。つい後回しにしがちですが、この分野も優先的に勉強したほうがよいでしょう。
今回は、不法行為による損害賠償の時効に焦点を当てて解説します。不法行為の定義とともに押さえてください。
不法行為の時効の考え方
まずは不法行為に限らず、時効には主観的期間と客観的期間の2種類があります。それぞれの期間の起算点がいつになるかを理解しましょう。
主観的期間
主観的期間は、権利を主張する者の認識や解釈を時効の起点にします。
不法行為では被害者やその法定代理人が、損害および加害者を知ったときが起算点です。「損害を知ったとき」は、損害が発生していると現実に認識した段階を指します(最判平成14年1月29日)。
また損害のみならず、被害者の存在も知った状態がスタートラインとなります。損害は発生しているものの、被害者が誰か認識できない場合は時効も進みません。
特に行政書士試験では、「および」や「または」で引っかけてくる問題も多い印象です。うやむやに覚えず、正しく覚えるようにしましょう。
客観的期間
客観的期間は、世間一般的に認識できる段階を時効の起点とします。
不法行為に関しては、「不法行為のとき」が起算点です。客観的期間では、よく「損害があったとき」と引っかけ問題が出てくることがあります。これらを間違えないように注意しましょう。
不法行為における損害賠償の時効
不法行為とは、文字通り法律に反する行為をすることです。民法では不法行為をすると、損害賠償を請求できる旨が定められています。
しかし損害賠償は、ある期間を過ぎてしまうと時効により消滅してしまいます。不法行為の内容により、時効の期限も変わるのでパターンごとに区別して覚えましょう。
通常の損害賠償
不法行為による通常の損害賠償において、時効は次のように定められています。
- (被害者等が)損害および被害者を知ってから3年
- 不法行為があったときから20年
民法では、事件の早期解決を軸の一つにしています。そのため損害および被害者を知ったときからは、3年と迅速に損害賠償を請求しなければなりません。
生命・身体侵害への損害賠償
不法行為の中には、生命や身体が脅かされるケースもあります。主な例が、加害者の運転する車に跳ね飛ばされたときです。通常の不法行為よりも責任が重く、時効(主観的期間)が少しだけ長めに設定されています。
- (被害者等が)損害および被害者を知ってから5年
- 不法行為があったときから20年
実は主観的期間に「5年」が採用されたのは、2020年の法改正からです。改正前は主観的期間も3年であり、通常の損害賠償と変わりませんでした。
しかし生命や身体を侵害されたら、下手すれば長期の入院も強いられてしまいます。リハビリ期間等を踏まえても、3年ではあまりにも短すぎると判断されました。
こうした理由により、生命・身体侵害による不法行為の時効は主観的期間が「5年」となっています。とはいえ時効自体は存在するので、なるべく期間内に請求を済ませないといけません。
時効における債務不履行との違い
債務不履行にも損害賠償が認められ、不法行為と同様に時効が適用されています。しかし両者は期間が異なっており、勉強するうえでも混乱しやすいポイントの一つです。
ここでは債務不履行における時効の期限をまとめます。不法行為と見比べながら覚えてください。なお時効については、下記の記事でも説明しています。
通常の損害賠償
債務不履行における通常の損害賠償での時効は、次のように定められています。
- 権利行使できることを知ったときから5年
- 権利行使できる日から10年
不法行為の3年・20年と比べると、主観的期間は長くなっている分、客観的期間は短くなっているのが特徴です。
不法行為の場合、事の重大さから迅速な解決を目指しています。もちろん債務不履行にも同じことは言えますが、不法行為の主観的期間は「加害者が判明したとき」も含まれるので、より短く設定されていると押さえましょう。
一方で客観的期間については、債務不履行のほうが10年も短くなっています。債務不履行は一般的に契約から生じるため、相手の存在もある程度は認識しているのが基本です。
しかし不法行為の場合、全く関わりのない人物が加害者になるケースもよくあります。加害者が逃げ隠れする余裕を与えないように、不法行為は長めに設定されていると考えたらイメージしやすいでしょう。
生命・身体侵害への損害賠償
債務不履行での生命・身体侵害への損害賠償は、不法行為の場合と全く変わりません。
- 権利行使できることを知ったときから5年
- 権利行使できる日から20年
通常の債務不履行と比較すれば、客観的期間が10年延ばされています。これらも生命や身体に危害が加えられていることへの重要性が加味されました。
民法第167条の規定ですが、こちらも2020年4月民法大改正で新たに登場した条文です。生命や身体にダメージを与えるものは、5年と20年の時効が適用されると押さえましょう。
不法行為と時効のまとめ
今回の記事で押さえてほしいポイントは、不法行為と債務不履行の時効の内容および主観的・客観的期間です。数字は問題でも使いやすく、今後も出題が予想されます。
もちろん来年の試験に必ず出てくると断言はできませんが、覚えておくに越したことはありません。記事でも説明したように、ある程度理屈を整理すると覚えやすいでしょう。
最後に不法行為と債務不履行の時効について、表で整理してみました。こちらも併せて参考にしてください。
不法行為 | 債務不履行 | |
---|---|---|
通常の場合 | ・主観:3年 ・客観:20年 |
・主観:5年 ・客観:10年 |
生命・身体への侵害 | ・主観:5年 ・客観:20年 |
・主観:5年 ・客観:20年 |