行政の処分によって国民が不利益を被ったら、行政不服審査法や行政事件訴訟法の救済を受けられます。国民が救済の手続きをできるよう、教示をしなければなりません。
この記事では、教示の意味や行政不服審査法と行政事件訴訟法での取り扱いの違いを解説します。行政書士試験や司法試験の勉強に役立たせてください。
教示とは
教示とは行政が国民に対し、行政不服審査法・行政事件訴訟法の救済を受けられる旨を示すことです。国民の中には、処分による救済を受けられるのを知らない人もいるでしょう。
行政は万が一トラブルが生じた際に、国民がスムーズに救済を受けられるよう対処しなければなりません。ただし行政不服審査法と行政事件訴訟法でやり方が異なるため、それぞれを区別して覚える必要があります。
行政不服審査法での教示
行政不服審査法が定める審査請求は、行政の処分を審査庁にジャッジさせる方法です。裁判所を関与させない分、簡易的に手続きできるのがメリットといえます。行政不服審査法における、教示のルールを解説しましょう。
なお審査請求については、以下の記事でも詳しくまとめているので併せて参考にしてください。
教示すべき事項
行政不服審査法において、教示すべき事項は以下のとおりです。
- 処分に対して不服申立てできる旨
- 不服申立てをすべき行政庁
- 不服申立てができる期間
教示は「書面」で行う必要があります。一方で口頭で処分を下す場合、教示そのものが必要ありません(処分自体が軽微であることが多いため)。
利害関係人からの請求
教示は、一般的に処分の相手方にするものです。しかし行政処分により、相手方以外の人物が不利益を被るケースもあるでしょう。
このように行政の処分や不作為に関し、法令上の利害を受ける人を利害関係人と呼びます。行政不服審査法では、利害関係人が行政庁に教示を求めるのも可能です。
もし利害関係人から請求されたら、以下の事項を教示しないといけません。
- 不服申立てができるかどうか
- 不服申立てすべき行政庁
- 不服申立てができる期間
原則として口頭でも可能ですが、書面での教示を請求されたら書面でする必要があります。
教示に誤りがあったら
忘れずに教示をしたはいいものの、その内容に誤りがあるケースも考えられます。このような誤りについても、国民が不利益を被らないように救済措置がとられます。
具体的な救済の内容について解説しましょう。
不服申立てすべき行政庁を間違えた
不服申立てすべき行政庁に関する教示が間違えており、それを信じた人が関係ない行政庁へ審査請求したとしましょう。この場合、当然ながら審査請求人は再提出する必要がありません。
まず書類が届いた無関係の行政庁は、処分庁か正しい審査庁のいずれかに審査請求書を送付する必要があります。同時に審査請求書を送付したことを、審査請求人に対して通知しなければなりません。
審査請求書が処分庁に届いたら、処分庁は正しい審査庁へ送付します。その際に処分庁側も、こうした対応をした旨を国民に通知することが義務付けられています。
再調査の請求ができると間違えて記載
国税に関する処分などには、再調査の請求が認められることもあります。しかしあくまで例外的な措置であり、全ての処分に適用されるわけではありません。
しかし処分庁が処分をする際に、誤って「再調査の請求ができる」と記載し、国民はそれに従って請求したとしましょう。
当該ケースにおいて、処分庁は再調査の請求書を正しい審査庁に送付します。このとき再調査の請求は、はじめから審査請求として提出されたとみなすのがポイントです。
したがって請求人側は、改めて審査請求書を提出する必要がありません。さらに処分庁は請求書を審査庁に送付した旨を、請求人に対して通知します。
行政事件訴訟法と教示
行政事件訴訟法とは、行政の処分や不作為に関するトラブルを裁判所がジャッジする方法です。行政不服審査法よりも厳格な手続きがとられ、じっくりと解決する特徴があります。
行政事件訴訟法においても、書面での教示が必要です。同じく具体的にどのような内容を記載すべきかを解説しましょう。
取消訴訟の場合
行政事件訴訟法では、以下の事項を書面で教示しないといけません。
- 被告とすべき対象
- 出訴期間
- 審査請求前置主義(採用されている場合のみ)
- 裁決主義(採用されている場合のみ)
取消訴訟の中では、あらかじめ行政不服審査法に基づいて審査請求すべきケースもあります。これを審査請求前置主義と呼び、法律によって定められています。
さらに裁決主義とは、審査請求の裁決に対する訴訟のみが認められることです。こちらも特殊な事例になるので、教示で相手に伝えなければなりません。
取消訴訟が何かわからない人は、以下の記事でも詳しくまとめているので参考にしてください。
形式的当事者訴訟の場合
形式的当事者訴訟とは、当事者間の法律関係における確認や形成処分など、当事者の一方を被告として提起される訴訟です。主な例として、収用委員会の裁決に関する損失補償の訴えが挙げられます。
形式的当事者訴訟については、以下の事項を書面で教示しなければなりません。
- 被告とすべき人物
- 出訴期間
口頭で処分を下す場合には、これらの教示をする必要がありません。形式的当事者訴訟の仕組みと併せて覚えてください。
教示のまとめ
この記事では、行政法における教示を説明しました。教示は国民の権利を守るうえで欠かせない要素の一つです。
しかし行政不服審査法と行政事件訴訟法で取り扱いが異なるため、それぞれを区別して覚えなければなりません。複雑かつ紛らわしい内容ではありますが、狙われる可能性もあるので押さえておきましょう。