公務員試験や行政書士試験の行政法では、国家賠償法が出題されることもあります。国家賠償法を勉強する中で、まず押さえたほうがよいのが代位責任説と自己責任説です。
しかし両者の違いがよくわからず、あまり深く勉強していない人もいるでしょう。ここでは代位責任説と自己責任説の意味をわかりやすく解説します。
国家賠償法の内容
まずは簡単に国家賠償法を解説します。国家賠償法とは公務員が職務を行う中で、故意・過失により他人損害を加えたときに賠償することを定めた法律です。
あくまで「違法性」が要件であり、適法な行為に対して補償する損失補償とは区別されます。公務員の違法行為が重大な過失による場合、国や自治体は当該人物への求償も可能です。
代位責任説と自己責任説の違い
国家賠償法における損害賠償の性質には、代位責任説と自己責任説があります。それぞれの意味と根拠を押さえつつ、しっかりと区別することが大切です。
代位責任説=国や自治体が公務員を肩代わり
代位責任説とは、国や自治体が公務員個人を肩代わりする考え方です。こちらは国家賠償法1条1項を条文どおりに解釈した説といえます。
国や自治体が肩代わりするため、公務員個人は責任を負いません(重大な過失があるときに求償できるのみ)。
また性質上、賠償金の発生条件として加害公務員の特定も必要とされています。しかし個人を具体的に特定する必要はありません。
自己責任説=国や自治体は独自で責任を負う
自己責任説とは、公務員の責任から独立して国や自治体が責任を負うとする考え方です。国家活動は一定の危険が伴うため、何か問題が起こったら国や自治体が独自に対応すべきといった考え方に基づきます。
公務員の責任が肩代わりされるわけではないので、個人も賠償金を支払わないといけません。この説によれば、加害公務員を特定できなくとも国や自治体は責任が生じるといえます。
通説は代位責任説である
最高裁の判例に基づくと、通説は代位責任説を採っています。したがって公務員が職務上の違法行為により問題を起こしても、個人が賠償金を支払うわけではありません。
しかし国家賠償法は、あくまで「職務上の行為」であることが要件です。公務員の仕事をしている人でも、プライベート(私生活)で万引きしたなどの事例では当然ながら個人にも賠償請求できます。
一方で「職務上の行為」にあたるかどうかは、客観的な外見を備えているかで判断します。例えば非番の警察官が、制服姿で違法な取り調べをした場合、周りは「仕事をしている」ように見えるでしょう。
このケースにおいては実際には非番だとしても、国家賠償法が成立する余地はあります。
民法の使用者責任が争われた判例
代位責任説の応用として、民法の使用者責任が認められるかを争われた事例について解説します。わかりやすく解説することから、実際の事案とは内容が異なるので注意してください。
訴訟のきっかけとなった事案
ある保育園に通わせていた園児が、同級生におもちゃを投げつけられてケガをしてしまいました。しかし保護者は、「ケガをした根本的な原因は先生Aの怠慢にある」と訴えます。
実際に先生Aには監督不行き届きといえる要素があり、職務行為が違法といった認定は可能でした。そこで保護者は、国が公務員を管理すべき立場であることから、保育園長にも民法の使用者責任を果たすべきと提訴しました。
最高裁判例=使用者責任を否定
最高裁判例は保育園長に使用者責任がなく、保育園長および先生Aの賠償責任を否定しました。その理由として、損害賠償責任はあくまで国・自治体にあると考えているためです。
保育園長も先生Aも、どちらも個人であることには変わりません。したがって保育園長は使用者としての立場にありつつも、個人では責任を負わないと判断しました。
ちなみに法律上では、雇っている側を使用者、雇われている側を被用者と呼びます。これらは今回の話だけではなく、民法や商法でもたびたび出てくるワードです。
あまり聞きなじみがないかもしれませんが、それぞれを混同しないように注意してください。今回の事例では、保育園長が使用者、先生Aが被用者と位置づけられます。
国家賠償法のまとめ
今回は国家賠償法の基本的な考え方である、代位責任説と自己責任説の違いを解説しました。それぞれの説の内容に加え、現状の通説は代位責任説である点を覚えましょう。
意義 | 公務員個人の責任 | |
---|---|---|
代位責任説 | (国や自治体が) 個人を肩代わりする |
不要 |
自己責任説 | (国や自治体が) 独自に責任を負う |
必要 |
また国家賠償法の内容では、行政事件訴訟法などと同様に判例から出題されやすい傾向があります。有名判例を中心に押さえつつ、正誤をしっかりと読み取ることが大切です。
今後も公務員試験や行政書士試験向けに、行政法の内容を解説します。まだ見ていない方は、ぜひ他の記事も参考にしてください。