今回は公務員試験における「行政法」の解説をします。
「行政職員はもっと柔軟に働け!」と怒る人はたくさんいます。
しかし、これを読めば行政職員はどうしても制限がかかることを理解できるはずです。
ここでは、行政法の最も基本的な内容である法律による行政の原理を紹介します。中でも法律の留保を中心に確認しましょう。
公務員試験でよく出される引っ掛け問題にも触れるので、受験される方もぜひチェックしてみてください。
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・法律の留保の5つの考え方
法律による行政の原理とは
公務員試験でまず勉強するのが「法律による行政の原理」です。
行政は必ず法律に基づいて仕事をします。単独で好き勝手に行動できるわけではありません。
ここでいう法律は、国会によって制定されたもののことです。政令や省令といった成文法が含まれるわけではないので、選択肢には注意してくださいね。
この点から、封建時代や近世において布告や勅令の形で出された法規については、法律による行政の原理は働いていなかったといえます。
法律による行政の原理は、3つの種類があります。
- 法律の法規創造力
- 法律の優位
- 法律の留保
では、それぞれを説明していきましょう。
なお、行政職員を目指すうえでは、以下の著書を揃えておいた方が賢明です。
法律の法規創造力
法律の法規創造力は「行政が新たに法規をつくるには、法律の授権が必要」とする原理です。
行政は、勝手に国民の権利義務に関する規定を作ってはいけません。行政が国民に規制をかけるためには、法律の授権が必要です。
法律の授権とは、国の作る法律によって権利が与えられることを指します。「別途、規則で定める」などと記載されるケースが一般的です。
つまり、行政は「法律で定めて」はじめて国民の権利義務に関する規則を作れます。
なお行政活動に対して、法律の授権が必要になるわけではありません。あくまで行政が法規を作るときに必要となるため、区別して覚えるようにしましょう。
法律の優位の原則
法律の優位の原則とは、法律が行政よりも上の立場にある旨を示した原則です。
法律の規定と行政活動が矛盾する場合は、法律の規定が優先されます。
当然といえば当然ですが、いくら行政の調査といっても法律に違反するやり方をすれば問題沙汰となります。
行政職員は、いかなる仕事でも「法律厳守」を心がけなければなりません。なお、このような考え方は憲法41条が根拠とされています。
第四十一条 国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。
公務員試験では憲法も専門科目にあるため、どちらも覚えてください。
法律の優位の原則は、権力的・非権力的行政活動いずれにも適用されます。とりあえず、全ての行政活動に適用されると考えてよいでしょう。
法律の留保の原則
では、最後に法律の留保の原則を説明しましょう。
こちらは「行政活動は『法律の根拠』を求める原則」です。
例えば、行政によって土地が強制執行されるケースを想定しましょう。いわゆる「差し押さえ」ですね。
行政がこれを行うには、以下の法律の根拠に基づかなければなりません。
- 行政代執行法
- 国税徴収法
- 土地収用法の一部
とはいえ、法律の留保の考え方は単純ではありません。なぜなら、大きく分けて3つの考え方があるからです。
- 侵害留保説(判例)
- 全部留保説
- 権力留保説
- 重要事項留保説
- 社会留保説
これらの意味を把握するとともに、日本ではどのように認識されているかを押さえなければなりません。
法律の留保の原則とは
では、ここで法律の留保における3つの説を紹介します。
試験では全ての説が問われる場合もあるため、まとめて覚えてください。
侵害留保説
これは判例で用いられていた説となっています。
侵害留保説は国民の権利(自由や財産)を侵害するもののみ、法律の根拠に従うべきとする考え方です。
先ほど例に出した行政の強制執行(差し押さえ)の場合は、国民の居住地等を没収しているので権利を侵害する行為といえます。
そのため、法律の根拠は当然に必要です。しかし、居酒屋の営業の申請を認めるような行政行為となると話は異なります。
こちらは「営業が認められた」と国民にとってはプラスになるため、権利を侵害した行為ではありません。
侵害留保説は、法律の根拠を「国民の権利を侵害」する場合のみに限定しています。
法律による行政の原理の範囲では、絶対に押さえておくべきポイントのひとつです。
全部留保説
全部留保説は、民主的イデオロギーに重点を置く考え方です。簡単にいえば、行政活動は全て法律の根拠に基づくべきだと考えます。
分かりやすい考え方ではあるものの、行政活動が著しく制限されるというデメリットもあります。
特に、仕事内容が煩雑化している今日の行政では、円滑さが大きなカギを握ります。
全ての行為で法律の根拠を調べるとなれば、スムーズな行政活動も難しくなるでしょう。現実的に考えると、適用が難しい説です。
権力留保説
最後に、権力留保説を紹介します。
国民の権利を侵害するか、与えるかに関わらず「権力を使った行政活動」であれば法律の根拠に従うべきだという考え方です。
権力を使った行政活動は、国民よりも行政が上の立場になる状態を指します。
反対に、国民と行政が同じ目線に立ってなされる行為もあります。
主な例が以下のとおりです。
- 行政契約(例:公務員による筆記用具の購入)
- 行政指導(例:住民の争いの仲介)
行政契約と行政指導の具体的な内容は、次の記事をご覧ください。
重要事項留保説
重要事項留保説は、重要事項とされている行政活動に法律の留保を求める説です。
一般的には民主主義の原則に基づき、基本的人権の根幹となる政策や計画の策定に根拠が必要とされています。
ただし、重要なものと重要でないものを明確に分けられるほど行政の仕組みは単純ではありません。以上から、基準が分かりにくいといった批判もあります。
社会留保説
社会留保説は、侵害留保説の内容のみならず社会権にかかる行政行為にも法律の根拠を求める説です。社会権にかかる行政行為には、給付金の支給などが挙げられます。
こちらの考え方は、なぜ給付行政に対象を拡大したのかを説明できないと批判されています。
比較的単純な考え方であり、過去の問題でもそこまで取り上げられていない印象です。ついでに覚えておくとよいでしょう。
法律による行政の原理のおすすめ勉強法
法律による行政の原理の内容は、専門用語が数多く出てきます。勉強する際には、これらの用語の定義をしっかりと理解することが大切です。
公務員試験用のテキストの中には、専門用語を表で整理されているものもあるでしょう。
この記事でも、専門用語を表で整理してみました。
法律による行政の原理 | 定義 |
---|---|
法律の法規創造力 | 行政が法規を作るには 法律の授権が必要 |
法律の優位 | 法律と行政活動が矛盾したら 法律のほうが優先される |
法律の留保 | 行政活動に 法律の根拠を求める |
法律の留保 | 根拠が必要な行政行為 |
---|---|
侵害留保説(判例) | 国民の権利を侵害する行政行為 (自由主義的イデオロギー) |
全部留保説 | 全ての行政行為 (民主主義的イデオロギー) |
権力留保説 | 権力を行使した行政行為 |
重要事項留保説 | 基本的人権において 重要となる行政行為 |
社会留保説 | 侵害的行為と社会権的行為 |
要点を押さえやすくなるので、ぜひ確認してみてください。