アパートの賃貸借契約を結んだとき、物件によっては敷金が発生することもあります。しかし世の中には、敷金を巡ってトラブルになる人も少なくありません。
この記事では敷金が返ってくる条件について紹介します。また公務員試験や行政書士試験にも出題される範囲なので、試験対策の観点からも見ていきましょう。
近々アパートを借りる予定の人、就職・資格試験に向けて民法を勉強する人はぜひ参考にしてください。
敷金とは
敷金とは賃借人の帰責事由により目的物が破損するなど、将来の債務に備えて賃貸人が契約時に預かるお金です。
賃貸借契約は、貸主と借主の信頼関係に基づいて成立します。しかし借主側が信頼を裏切って、家賃を滞納してしまうケースもあるかもしれません。
また借主がイライラのあまり壁に穴を開けた場合、修繕が必要になることも考えられます。そこで貸主は、借主が退去する際に敷金をもって破損箇所の修繕が可能です。
敷金の目的は特に定められていませんが、賃貸借契約で生じる「債務」に充てる必要があります。
敷金は返ってくる?
敷金は1〜2ヶ月分の家賃で設定されるため、借主にとっても少なからず負担がかかるでしょう。そのため金銭が返ってくるかどうかは重視すべき要素となります。返還の有無も踏まえて、敷金の仕組みを解説しましょう。
民法の原則は全額返金
敷金は、民法のルールからすれば原則として全額返金されるお金です。基本的に家賃の滞納や設備の破損、部屋のクリーニングに充てられますが、これらは「借主」の帰責事由に基づく必要があります。
長く目的物を使えば老朽化するのは当たり前であり、これらの全てを借主が負担することは想定されていません。しかし現実的には、全額返金されるハードルは極めて高いといえます。
その理由は、原状回復義務の判断基準が曖昧であるためです。部屋の汚れに関しても、借主の過失に基づくものか、それとも老朽化が原因かを正確にジャッジするのは簡単ではありません。
また理解のある人ならよいですが、たいていの貸主は目的物の修繕にできる限り敷金を使いたいと思うはずです。こうした事情もあり、現実的に敷金は7割程度に減らされたうえで返ってくるのが一般的となっています。
敷金はいつ返ってくるか
敷金の返還時期について、民法では「賃貸物の返還を受けたとき」としか定められていません。具体的にいつお金が返ってくるかは、貸主と借主間の契約によります。
筆者の経験上、1カ月程度で振り込まれたと記憶しています(あまり覚えていない)。あまりにも振込が遅い場合は、大家もしくは不動産会社に問い合わせるとよいでしょう。
返還を請求する相手
敷金の返還請求を求める相手方は、当然ながら賃貸人側です。しかし賃貸人が第三者にアパート等を売っ払い、オーナーが変更した場合は誰に請求するのが正解でしょうか。
この場合、もし前賃貸人に対する債務を履行していた場合でも、敷金の返還請求は新賃貸人に請求するのが原則です。
仮にアパート等を譲渡すると、前賃貸人は不動産という財産がなくなるので無資力に陥る危険性があります。一方で新しく権利を得た第三者は、無資力になるリスクが比較的低いです。そのため新賃貸人に請求するのが望ましいと考えられています。
賃借人が変更した場合
Aさんが甲から建物を借りていたものの、その賃借権をBさんに譲ることもあるでしょう。このとき、敷金の権利もともに移動するかが争われると思います。
一般的な解釈では敷金の権利はBさんに移動せず、Aさんに残るのが原則とされています。その理由は新賃借人の債務についてまで、旧賃借人が負担するのは望ましくないためです。
ただし敷金を返還してもらう権利ごと移すような契約を結んだときは例外的に移転します(旧賃借人にとっても不意打ちとならない)。
敷金と同時履行の抗弁権
敷金に関して出題されやすいのが、同時履行の抗弁権との関係性についてです。ただ暗記するだけでもよいですが、できる限り内容をしっかりと理解してください。
同時履行の抗弁権とは
同時履行の抗弁権とは、相手方が債務履行しない限り、こちらも履行を拒否できる権利のことです。例えば売買契約において、店舗側が商品を渡さない限りは買主側もお金を払う必要がありません。
このように世の中の取引は、同時履行の抗弁権に基づいたものが多く存在します。
敷金の返還請求に認められるか
もし賃貸人が敷金を一向に返金しない場合、賃借人側は物件の明け渡しを拒否できるでしょうか。正解は「✕(できない)」です。
民法の規定上では、敷金と物件の明け渡しは同時履行の抗弁権が適用されないと考えられています。その理由は、敷金の目的にあります。
元来、敷金は賃借人側の帰責事由に基づき、物件に損害が発生した際の補填として使われるものです。どれほどの損害が発生したかは、物件が明け渡されないと細かく算定できません。
以上から「明け渡し→敷金の返還」という順に沿って、退去後の手続きが進められます。順番的に必ず明け渡しが先に来るので、敷金の返還請求権とは同時履行の抗弁権の関係には立ちません。
同時履行の抗弁権については、以下の記事でも詳しくまとめているので併せて参考にしてください。
敷金は基本返ってくるが争いも多い
日常生活支援と試験対策が混ざったような内容になりましたが、敷金は借主の帰責事由に基づく債務等がなければ全額返ってくるのが原則です。ただし過失によって建物を傷つけたり、清掃を怠って汚したりして返還額が少なくなることもあります。
不動産会社が仲介に立たない、あるいは悪質な不動産会社が間にいると敷金が一切返還されない可能性も高まります。原状回復の判断は極めて曖昧であり、敷金を巡る法的なトラブルは少なくありません。アパートを契約し、敷金を支払う場合は注意が必要です。
公務員試験や行政書士の対策としては、同時履行の抗弁権との関係を中心に押さえましょう。条文の知識さえ押さえれば、基本的には問題なく正答できます。
過去問や問題集も使いつつ、どの内容が問われやすいかを自分でも整理してみてください。