社会学を勉強するうえで、外せない用語の一つが準拠集団です。しかし言葉の意味がわかりにくく、あまり頭に入ってこない方もいるでしょう。
この記事では、ロバート・キング・マートンの唱えた準拠集団と中範囲の理論についてわかりやすく解説します。公務員試験などで社会学を勉強している方は、最後まで読んでみてください。
準拠集団とは

準拠集団とは、自分が何かしらの決定を下すうえで、特に大きな影響を受ける集団のことです。皆さんが高校卒業後の進路を決めたとき、多くの方が同じ学校の同級生や一緒の塾に通っている友達の情報を参考にしたでしょう。
この場合、皆さんは高校や塾の同級生という準拠集団に属しているといえます。一方で準拠集団は、必ずしも特定の集団を指しているわけではありません。
たとえば最新のゲームが発売されたら、一緒に遊ぶ複数の友人に教えたいと思うはずです。こういったケースでは、複数の友人といった比較狭いコミュニティが準拠集団となります。
また甲子園常連校の野球部は、髪型を坊主にするところも少なくありません。この場合では、高校の野球部が準拠集団となっています。
準拠集団の種類
準拠集団には、大きく分けて積極的準拠集団と消極的準拠集団があります。ここでは、それぞれの意味について詳しく見ていきましょう。
積極的準拠集団
積極的準拠集団とは、自らが望んで積極的に影響を受けたいと考える集団のことです。たとえば優秀な同僚がいる職場は、自分にとっても成長できるため、大事にしたいと思うでしょう。
積極的に優秀な同僚たちと触れ合い、価値観を共有しようとするはずです。このように自分に影響を与える集団の中で、プラスのイメージを持っている種類が積極的準拠集団にあたると押さえてください。
消極的準拠集団
消極的準拠集団とは、自分からは進んで関与したくないと感じる集団のことです。主な例として、劣悪な環境にある会社が該当します。
同僚と仲が悪く、成長したいと思えない会社に仕方なく所属している方もいるでしょう。転職の機会にも恵まれなければ、悶々とした気持ちで今の仕事に耐えることもあります。
したがって所属集団でも、消極的準拠集団に該当するケースは少なくありません。必ずしも「所属集団=積極的準拠集団」にはならないので、勉強するときは注意してください。
準拠集団が持つ機能
準拠集団の持つ機能には、規範的機能と比較機能の2種類があるとマートンは考えました。それぞれがどういった意味を持つか、具体例と併せて見ていきましょう。
規範的機能
規範的機能とは、所属している個人に準拠集団がヒントを与える機能です。たとえば規則正しい生活を送る友人たちと一緒にいて、「早寝早起きを習慣づけよう」と思ったとします。友人を見習おうとしているため、良い方向で規範的機能が働いている例の一つです。
一方で規範的機能は、個人が集団に反発する意味合いで用いることもあります。パワハラが横行している会社に所属した際、「自分は部下を大事にする」と固く誓うのが反発するケースです。反面教師にしている状態と言い換えれば、よりわかりやすいでしょう。
比較機能
比較機能とは、自分や他人を評価するうえで、準拠集団が基準になる機能を指します。たとえばニュースで非行や犯罪に走った人を見たとき、「自分の周りにはこういう人間はいない」と思うことがあるでしょう。
こちらをマートンの社会学に当てはめると、自らが属する準拠集団に照らし合わせながら、他人を評価している状態です。このように比較機能も、普段の生活の中で当然に持つとされています。
なお準拠集団は、自己評価する際にも同様の機能を持ちます。学力の高いエリート層と比較して、自分の強みを見つけ出すなどが主な例です。
中範囲の理論とは
マートンは、個別に起こる現象から一般理論を構築するには、中範囲の理論を見つけ出すことが大事だと考えました。この理論には、準拠集団と予言の自己成就が当てはまると述べます。中範囲の理論の意味について、詳しく見ていきましょう。
パーソンズのAGIL図式の否定
タルコット・パーソンズは、個別の現象の分析によって一般理論を構築できると考えた人物の一人です。適応(Adaptaion)、目標達成(Goal Attainment)、統合(Integration)、潜在(Latency)が機能し、社会が成立するといったAGIL図式を提唱しました。
しかしマートンは、パーソンズのAGIL図式ではあまりにも単純すぎると批判します。現実には、個々と全体の中間にくる要素も無視できないと考えたのです。なおパーソンズのAGIL図式については、以下の記事で解説しているので併せて参考にしてください。
パーソンズの唱えたAGIL図式とは?構造・機能主義の考え方 - 【資格の教室】ヤマトノ塾
中範囲の理論と準拠集団
中範囲の理論が形成される要素の一つとして、マートンは準拠集団を挙げました。たとえば日本の政治に対する国民の批判も、どの準拠集団に属するかで変わっていくはずです。
仮に金利を大幅に上げる政策を打ち出せば、設備投資に力を入れている企業は反対するでしょう。返済時の利子が高くなり、融資を受けるのが難しくなるためです。
一方で地方銀行からすると、利子による収入が増える傾向にあります。したがって地方銀行の立場に立てば、金利を大幅に上げる政策に賛同しすくなります。
このように個々の価値観から日本の政策を分析するには、準拠集団の持つ価値観も無視できません。準拠集団が個々と一般理論の間に立つことで、より詳細な分析ができるわけです。
中範囲の理論と予言の自己成就
準拠集団と同じく、中範囲の理論として使われる例の一つに、マートンは予言の自己成就を挙げました。予言の自己成就とは、たとえデマだったとしても、予言した内容が現実社会にも起こってしまう現象です。
予言の自己成就の例として、コロナ禍のトイレットペーパー騒動が挙げられます。日本のトイレットペーパーはほぼ国内生産であるため、コロナ禍でロックダウンをしても生産が止まることはなかったはずでした。
しかしSNSの投稿で、トイレットペーパーを買いだめしていないと、入手できなくなるといった誤情報が広まってしまいます。その投稿に踊らされた人々が買いだめしてしまい、とうとう工場の供給が追いつかなくなります。
結果的にトイレットペーパーが店頭から姿を消し、一時的に入手が困難となってしまいました。SNSの普及により誰もが自由に発信できる今日、誤情報やデマを投稿しないように注意しなければなりません。
予言の自己成就も、個々の人間により一般理論が形成されてしまうきっかけの一つです。したがって社会の機能を見ていくうえで、マートンは予言の自己成就も重視しました。
準拠集団のまとめ
仕事やプライベートにおいて、私たちはさまざまな準拠集団に属しています。服装や髪型で友人から影響を受けたり、将来の夢を考えるうえで親や教師を参考にしたりすることもあるでしょう。
またマートンの準拠集団を勉強するうえでは、個々の現象から一般理論を分析するための中範囲の理論を果たす点も押さえてください。背景もしっかりと押さえておけば、社会学の内容をより深く理解できるようになります。