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ワークライフバランスを捨てる|高市早苗新総裁の意図を解説

2025年10月4日に総裁選が行われ、高市早苗氏が見事に新総裁となりました。その際に「ワークライフバランスを捨てる」と発言したことが話題となっています。

しかし高市早苗氏の発言に対し、ほかの労働者に不適切ではないかという批判もあります。この記事では元公務員の筆者が、高市早苗氏の発言の意図に加え、労働法と国会議員の関係をわかりやすく解説します。公務員試験を受験される方も、ぜひ参考にしてください。

 

ワークライフバランスとは

ワークライフバランスとは、仕事と私生活のバランスを整えようとする考え方です。日本の労働基準法では、1日8時間、1週間40時間の労働時間が採用されています。

仮に一日のほとんどを仕事に使ってしまったら、私生活が充実できなくなります。適度に休むこともできず、過労死などの事案にもつながりかねません。

したがって民間の労働者については、ワークライフバランスが重視されています。現代では「残業キャンセル界隈」なども存在しており、長時間労働は忌避されているのが特徴です。

 

高市早苗新総裁の意図

高市早苗氏の述べた「馬車馬のように働く」「ワークライフバランスを捨てる」は、自民党の国会議員に対する発言です。そもそも総裁選が、自民党のリーダーを決める選挙であるため、自分の仲間に向けた言葉となります。

したがって日本国民に対し、「ワークライフバランスを捨てろ」と命令しているわけではありません。日本国民を守るべく、総裁自らが一生懸命に働くといった宣言です。

ここでは具体的な意図について、より深堀りしながら見ていきます。無論、筆者が高市早苗氏の考え方をすべて把握しているわけではないので、あくまで「邪推」として読んでください。

国民の生活が困窮しつつある

個人差はありますが、米の急騰や食料品高の影響により、国民の生活はひっ迫している状態です。さらに災害対策や防衛対策など、日本にはいくつもの課題があります

この状況を打破するには、画期的な経済政策を早急に打ち出さないといけません。経済の知識に富んでいる高市早苗氏も、スピード感を重視しているといえます。

自民党の国会議員が少ない

岸田文雄首相、石破茂首相と交代する中で、自民党の議席数はどんどん減少しました。衆議院と参議院ともに過半数を超えておらず、与党としての力も弱くなっている状態です

単純に自民党の国会議員が少ないため、一人ひとりの抱える仕事量は多くなります。その中で最高の仕事をやり遂げ、自民党としても議席数を増やさなければなりません。

高市早苗氏は自民党の国会議員に対し、焦りを感じてほしかったと推測できます。そのうえで自らが先頭に立つ趣旨の発言をしているため、強い覚悟がうかがえます。

 

国会議員と労働法の関係

高市早苗氏の発言について、「国会議員にも労働法の権利があるのでは」と感じる方もいるでしょう。しかし労働法においては、国会議員を対象外としています。ここでは法律の観点から、国会議員に労働法が適用されない理由を解説します。

労働法が適用される対象

労働法の目的についてわかりやすく説明している図

まず労働法が基本的に適用されるのは、日本で働いている「労働者」です。そもそも労働法にもさまざまな種類があり、大きく以下の三法に分かれます。

  • 労働基準法
  • 労働組合法
  • 労働関係調整法

この中で、労働時間について定めているのは「労働基準法」です。正社員に限らず、パートや派遣社員、アルバイトにも労働基準法が適用されます。

労働者は企業と比べると社会的な立場が弱く、ブラック企業に搾取される事例も少なからずありました。こうした環境から労働者を守るべく、労働基準法が重視されています。

公務員は労働法が適用されない

公務員の場合、労働法が適用されません。公務員は全体の「奉仕者」として、公共の利益を守らないといけないためです。要するに公務員は「労働者」には該当しません。

たとえば日本で大災害が発生したと仮定しましょう。この場合、労働基準法の労働時間を1日8時間を適用すると、災害対応や復旧作業に支障をきたしてしまいます。

さらに公務員が受け取っている給料は、国民の納めた税金です。こうした性質もあり、公務員は労働法で守られていないわけです。

代わりに、国家公務員法や地方公務員法などで業務に関する権利やルールが定められています。公務員と労働の関係については、以下の記事で詳しく述べているため、併せて参考にしてください。

国会議員も公務員とみなされる

国会議員は、法律上特別職の公務員に該当します。特別職の公務員は国家権力に大きく関わる種類であり、裁判官や警察官も指します。

公務員の一つである以上は、労働法が適用されません。そのため一般労働者と同じように、労働法を持ち出して議論できないと押さえてください。

以上から国会議員には、労働法のルールは適用されません。高市早苗氏が自ら「ワークライフバランスを捨てる」といった趣旨の発言をしても、全く問題ないことがわかるはずです。

 

公務員と民間人は別である

公務員は全体の奉仕者であることをわかりやすく説明した図

ここまで説明したように、働において公務員と民間人は区別される必要があります。民間人は、一般的には「労働者」に分類されます。一方で公務員の場合は、あくまで「奉仕者」です。

日本のリーダーが働きすぎると、国民の労働時間も増えるのではと懸念する声もありました。しかし公務員と民間人は別であるため、一緒くたに考えるのが間違いです。

企業が「総理も馬車馬のように働いているから」と言って、労働時間を不当に増やすのは法律違反となる可能性があります。私たちも、公務員と民間人の働き方が異なる点を再度認識しなければなりません。

 

ワークライフバランスを大事に

私たち民間人は、労働法できちんと労働における権利が保障されています。仕事も大事ではあるものの、私生活を充実させることが何より大切です。

反対に公務員を目指す方は、全体の奉仕者として公共の利益を守るために働くことを認識しないといけません。災害などが発生すれば、何日も連続で働くケースもあります。

とはいえ公務員も、いち国民であることには変わりありません。一般職や教職、消防士、警察官なども休める日にはしっかりと休んでください。

今回の高市早苗氏の発言は、日本をより豊かにするといった覚悟の表れです。言い換えれば、国民のワークライフバランスを守るため、あえて強い言葉を用いたとも取れます。下手に曲解しようとせず、発言の真意をきちんと読み取ることが大切です。