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国旗毀損罪とは?高市早苗首相の刑法改正案をわかりやすく解説

高市早苗新総理は刑法を改正し、国旗毀損罪を導入しようとしています。しかし現在の刑法の内容がわからず、どのように改正されるかわからない方もいるでしょう。

この記事では、公務員として勤務した経験もある筆者が、国旗毀損罪の内容をわかりやすく解説します。時事ニュースを勉強されている方は、ぜひ参考にしてください。

 

国旗毀損罪とは

国旗毀損罪についてわかりやすく説明した図

国旗毀損罪とは、日本を侮辱する目的で、国旗を毀損等した者に罰を与える規定です。まだ刑法に導入されていませんが、案が通ったら2年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金刑が科せられます*1

現在の刑法では、外国国章損壊罪は規定されています。こちらは外国を侮辱する目的で、その国の国旗を毀損等した者に2年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金刑を科す罪です。

しかし現行刑法では日本の国旗が対象になっておらず、器物損壊罪でしか問うことができません。そこで高市早苗は日本をより大事にするため、国旗毀損罪を盛り込もうと考えています。

 

国旗毀損罪で罰せられる行為

仮に国旗毀損罪が成立したら、以下の行為をした者に刑罰が与えられます。

  • 国旗の損壊
  • 国旗の除去
  • 国旗の汚損

ただし対象となるのは、上記の行為について「日本を侮辱する目的」でした場合です。具体的にどういった行為が罰せられるか、詳しく見ていきましょう。

国旗の損壊

損壊とは、国旗を物理的に破損させる行為が該当します。主な例として挙げられるのが、以下の行為です。

  • カッターやハサミで切り刻む
  • 火をつけて国旗を燃やす
  • ドリルで国旗に穴を開ける

これらの行為により、日本の威信や尊厳が傷ついたと判断されたら、罪に問われる可能性があります。

国旗の除去

除去とは、国旗自体に傷を与えていないものの、本来あるべきところから取り除くことです。たとえば皆さんも小学校や中学校での運動会で、国旗を掲揚した経験があるかと思います。

このときに学校の国旗を取り除いたら、今後は国旗毀損罪に問われる可能性があります。別の場所へ持って行くだけではなく、単に下ろす行為も基本的にはNGです

国旗の汚損

改正案が通ったら国旗を壊すだけではなく、汚す行為も刑罰の対象となります。主に該当するのは、次の行為です。

  • 国旗をペンキで塗る
  • 国旗に糞尿をかける
  • 汚れた靴で国旗を踏みつける

ちなみに現行刑法の器物損壊罪でも、これらの行為が罰せられる可能性はあります。たとえば飲食店で使っている皿に対し、尿をかけたら商売に使えなくなるでしょう。

器物損壊罪は「物を使えなくする行為」が該当しますが、物理的だけではなく精神的な理由も含まれています。したがって国旗毀損罪の案が通った場合、上記の行為も絶対にしてはいけません。

 

国旗毀損罪の考え方

国旗毀損罪が成立したら、基本的な考え方は外国国章損壊罪に近くなるでしょう。そこで外国国章損壊罪の特徴を見ながら、刑法の仕組みについて解説します。

国旗毀損罪は目的犯となる

外国国章損壊罪は目的犯に分類されるため、国旗毀損罪も同じ考え方になる可能性が高いでしょう。目的犯とは、特定の目的があったときのみ罰せられる犯罪のことです。

つまり「日本を侮辱する目的」がなければ、そもそも国旗毀損罪は適用されません。誤って傷をつけたり汚したりしただけでは、基本的には対象外となります。

ただし「日本を侮辱する目的」がなくても、器物損壊罪や窃盗罪が成立するケースは考えられます。どちらも法定刑は国旗毀損罪より重いため、十分注意しないといけません。

ほかの犯罪との関係

国旗毀損罪に該当する行為は、器物損壊罪にも問えます。また国旗を燃やす行為については、建造物等以外放火罪に該当するのが一般的です。

  • 器物損壊罪:3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金
  • 窃盗罪:10年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
  • 建造物等以外放火罪:1年以上10年以下の拘禁刑

どちらの行為も、国旗毀損罪より重い刑罰が科せられます。そのため国旗毀損罪のほうが適用されたら、刑罰が軽くなるのではと感じる方もいるでしょう。

刑法の考え方では、国旗毀損罪と器物損壊罪などは観念的競合の関係に立つと捉えます。観念的競合とは、一つの行為で二つ以上の罪が成立することです。

この場合は、最も重い刑に処するとされています。したがって国旗毀損罪が成立しつつも、観念的競合で刑罰が重くなる可能性もあるわけです。観念的競合については、下記の記事でも触れているので併せて参考にしてください。

 

国旗毀損罪がなかった理由

これまで日本に国旗毀損罪がなかった理由は、日本国憲法との関係に起因しています。そもそも外国国章損壊罪が成立したのは、円滑で安全な外交を維持するためです。

外国と友好関係を結ぶとき、相手国の国旗を損壊する人がいたら関係にヒビが入ってしまいます。こうしたリスクを防ぐべく、外国の国旗だけが保護法益となっていました。

一方で日本国旗を尊重する規定は、現行の日本国憲法には規定されていません。そのため刑法に国旗毀損罪が定められなかったとするのが、見解の一つです。

 

国旗毀損罪と表現の自由

国旗毀損罪に反対する人の中には、表現の自由にそぐわないといった意見もあります。もちろん日本人でも、日本に対して敬意がないと考える人もいるでしょう。こういった人々が、集団心理で差別される恐れがあることを指摘しています。

とはいえ国旗にかかわらず、そもそも物を壊したり汚したりする行為は、どんな理由があるにせよNGです。いくら日本を敬っていなくても、国旗を毀損してはいけません。

ただし国旗毀損罪の成立は、現行の日本国憲法の観点から疑問視する声もあります。上述のとおり、現行憲法には国旗や国歌に忠誠心を持つことを義務付ける規定がありません。

過去に国歌の起立斉唱をしなかった教員が、再雇用を認められなかった事件が起こりました。最高裁は校長の再雇用の拒否を合憲としましたが、思想・良心の自由を間接的に制約する判断とジャッジしたのも事実です*2

こうした争いもあるため、日本国憲法に「国歌や国旗に忠誠心を持つ」旨を定めるのが、順番として適切ともいえます。なお筆者自身は、国旗毀損罪の成立には賛成の立場です。

 

国旗毀損罪の今後について

高市早苗首相は、国旗毀損罪の法整備を積極的に進めています。すでに自民党や日本維新の会は、法案に対する合意書にも署名したようです。

筆者の意見を再度述べると、国旗毀損罪の導入には賛成しています。しかし日本国憲法との関係を紐解くと、まずは憲法に明記するのが先という考えもわかります。

ここから議会では、国旗毀損罪の法案について激しい議論が交わされるでしょう。今後の動向に注目が集まります。