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国家賠償法1条1項に関する判例|行政書士試験の対策をしよう

行政書士試験や公務員試験では、国家賠償法1条1項に関する判例が出題されることもあります。当該条文には有名判例も多く、勉強するうえではボリューミーに感じる人も多いでしょう。

ここでは特に狙われやすい判例について、わかりやすく簡潔に説明します。行政書士試験または公務員試験の勉強をされている方は、ぜひ参考にしてください。

 

国家賠償法1条1項

国家賠償法にかかる請求方法を簡単にイメージした図

まずは国家賠償法1条1項の条文について見ていきましょう。当該規定には、以下のように記載されています。

国家賠償法

第1条:国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

引用:e-Gov法令検索

公務員の故意や過失により、国民へ損害を与えたときに国や自治体が賠償責任を負うと示した規定です。そのため公務員は、個人として被害者に賠償する責任はありません。

国家賠償を巡る責任のありかについては、代位責任説と自己責任説の2つがあります。これらの違いは、以下の記事でまとめているので併せて参考にしてください。

代位責任説と自己責任説の違い|行政法の国家賠償法を解説 - 【資格の教室】ヤマトノ塾

 

 

国家賠償法1条1項の有名判例

公務員試験に出てくる国家賠償法は、判例から出題されることも少なくありません。ここでは1条1項について争われた判例をいくつか紹介しましょう。

児童養護施設事件

ある児童養護施設に通っていた児童が、同じ施設に通っている他の児童から暴行を受けてケガを負った事件です。原告はこれを職員による過失と捉え、管轄している県に対して使用者責任があると国家賠償を請求しました。

最高裁判例

最高裁判所は、施設の職員による養育・監護行為は公務員の職務行為にあたるとします。しかし公務員個人は、賠償責任を負いません。

国や地方公共団体以外の被用者(児童養護施設の職員)も、公権力を行使しているときは公務員とみなされます。したがって被用者個人が、損害賠償責任を負うことはありません。さらに使用者である児童養護施設も、賠償責任を負わないとされています。

この判例では、被用者と使用者ともに賠償責任はないと覚えればOKです。

所得税の更正処分

ある人物(X)は税務署長から税務調査に応じるべく、帳簿などの提出を命じられました。しかしXはそれに応じなかったため、税務署長は更正処分を下します。その処分を不服に感じたXは、国家賠償訴訟を提起しました。

最高裁判例

最高裁は税務署側が更正処分を過大にしていたとしても、それによって直ちに国家賠償法1条1項の違法には値しないと判旨しました。

あくまで違法かどうかの判断要素となるのは、「職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさず、漫然と更正処分をしたとき」です。少し長いですが、これらの要素は押さえる必要があります。

パトカーの追跡の違法性

こちらはパトカーが速度違反した車を追いかけたところ、その乗用車が事故を起こしてしまった事例です。重症を負った被害者は、パトカーの追跡方法に問題があったとして、損害賠償を県に請求しました。

最高裁判例

警察官の行為が違法だと判断するには、以下の条件が必要となります。

  • 追跡行為が職務目的を果たすうえで不必要
  • 逃走の態様や具体的危険性に照らして追跡が不相当

このケースでは、追跡行為に違法性がなかったとして警察官に違反はなかったとしました。

健康診断事件

とある税務署職員が、定期検診で胸部X線の検査を受けていました。その際に肺結核を示す陰影があったにもかかわらず、医院からは特別な指示が出されませんでした。結果的に職員は長期療養せざるを得ず、損害を負ったとして国に国家賠償請求をします。

最高裁判例

当該判例で重要となるポイントが、加害公務員が特定されていない状態で国や地方公共団体の責任を負えるかです。この点で最高裁は、加害公務員を特定できなくとも賠償責任を認めるとしました。

しかし責任が認められるのは、あくまで公務員の職務行為に限られます。レントゲン診断は医師の行為であり、公権力とは認めませんでした。

まとめると加害公務員が不特定でも責任は負えるものの、診断行為である医師の誤診について、国は賠償金を支払う必要はないと判旨しました。

検察官の公訴提起の違法

鉄道線路の爆破事件の嫌疑にかけられたXでしたが、後に控訴審で無罪判決を勝ち取りました。しかし捜査や起訴にあたった警察官を検察官に対し、謝罪と国家賠償を求めて裁判を起こします。

最高裁判例

結論から述べると、刑事事件で無罪判決だったからといって、逮捕や勾留した行為が違法にはならないと最高裁は判旨します。逮捕や起訴も証拠書類を勘案する必要はありますが、裁判官の心証と異なるのは致し方ないからです。

裁判官に関する違法

商人Xは民事裁判において留置権の抗弁をしたものの、被担保債権との牽連性がないと判断され敗訴しました。しかし後にXは、商人同士の取引であれば、被担保債権との牽連性がなくとも留置権を行使できる旨を知ります。

そこで裁判官が商法の規定を考慮しなかったことに対し、国へ損害賠償を請求しました。

最高裁判例

最高裁は裁判官の判断に瑕疵が存在しても、当然に国家賠償請求は認められないと判旨します。裁判官が違法または不当な目的を持っていたなど、意図的に権限を濫用したといった事情を必要としました。

宅建業者の監督の違法

内容がやや複雑ですが、建築会社A社が京都府から宅建の免許を受けたうえで業務を提供していたものの、多くの債務不履行を抱えていました。その後、度重なる苦情によりA社は免許取消を受けてしまいます。

しかし、ここで問題になってくるのがXという住民でした。XはA社を信じ切り、土地建物の売買契約を結んでしまったのです。

とはいえA社は免許取消処分を受けているので、手続き上の不備により土地および建物の所有権を取得できませんでした。740万円のみA社に支払ってしまい、損害を出したことで京都府に対して国会賠償請求訴訟を起こします。

最高裁判例(平成元年.11.24)

行政が免許を取り消す行為は、取引の公正および購入者の利益保護を図ることが目的であると最高裁も判旨しています。しかし具体的な損害の防止や直接的な救済を、目的にしていると考えるのは難しいとも述べました。

仮に取引で損害を受けたとしても、行政の監督処分の不行使が著しく不合理と認められない限り、違法という扱いは受けないとジャッジします。

クロロキン事件

この事件は、クロロキン製剤を使用した方が副作用でクロロキン網膜症を患い、その家族であるXが起こした訴訟です。Xはクロロキン製剤を当時の厚生大臣が承認したこと、網膜症の発生を適切に防がなかったことを理由に訴訟を提起しました。

最高裁判例(平成7.6.23)

最高裁は医薬品による副作用が発生しても、直ちに違法とはいえないと考えます。ここでポイントとなってくるのが、その時点における医学的・薬学的知見です。さらに薬事法の目的や厚生大臣の権限と照らし合わせ、著しく合理性がないかに着目しました。

その結果、当時の医学的・薬学的知見ではクロロキン製剤の有用性は否定されていませんでした。そのため厚生大臣がクロロキン製剤の承認を取り消さなかったとしても、著しく合理性を欠くとはいえないと判旨します。

熊本水俣病事件

四大公害病にも認定されている熊本水俣病ですが、この原因はチッソ工場から水俣湾に流れ出たメチル水銀でした。有毒なメチル水銀を魚が接種し、その魚を周辺住民が食べてしまったことで毒に侵されてしまいます。

一方で被害者患者は、水俣病の被害拡大を防ぐために、適切な規制をとらなかった行政にも原因があると訴えます。そこで国に対し、損害賠償請求訴訟を提起しました。

最高裁判例(H16.10.15)

最高裁は国や公共団体が規制を加えなかったために起きた問題は、法令の趣旨や目的、権限の性質に照らして考えるべきとします。そこで権限を行使しない判断は、許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くときに認められるとしました。

この考え方を水質二法(現在の水質汚濁防止法)という法律の当てはめます。その結果、水質二法の趣旨や目的、権限の性質に照らすと著しく合理性を欠くと認められました。したがって国家賠償法1条1項が適用され、違法となります

 

国家賠償法は判例を中心に勉強

行政書士試験において、国家賠償法を勉強するには判例を中心に見ることが大切です。ここで紹介した判例以外にも、国家賠償法に関する有名判例は数多くあります。

行政書士試験や公務員試験の問題を解きながら、どの判例が狙われやすいかを押さえておくとよいでしょう。違法か適法かだけではなく、どういった考えに基づいて結論に至ったかをまとめてください。