行政試験の労働基本権にかかる重要な判例が、三井美唄労組事件です。有名な判例ではあるものの、内容を理解するのが難しいと感じる人もいるでしょう。
この記事では、行政書士試験に短期合格を果たした筆者が、三井美唄労組事件を解説します。受験生は、ぜひ勉強の参考にしてください。
三井美唄炭鉱労組事件の詳細
三井美唄炭鉱労組事件を一言で説明すると、選挙活動をきっかけとする労働組合と組合員の争いです。この事件が起こったきっかけは、北海道美唄市における市議会選挙でした。
当該選挙において三井美唄炭鉱労働組合は、とある候補者(Y)を支持しようと取り決めました(統一候補とした)。しかし組合員のXは、Yが統一候補となることに納得がいきません。そこで労働組合の決定に反発し、自分自身が選挙に立候補しました。
一方で労働組合側は、組合の統制を乱したとしてXを処分します。Xは労働組合の行為が選挙妨害罪にあたるとし、裁判で争いました。
なお美唄の読み方は、「びばい」です。行政書士試験の勉強をするときは、理解を深めるために読み方も一緒に覚えてください。
三井美唄炭鉱労組事件の判旨
結論から言うと、労働組合がXに対して処分を下したのは違法とみなされました。主に争点となったのは、労働組合の統制権と立候補の自由の関係です。ここでは判旨の具体的な内容についてわかりやすく解説します。
労働基本権の趣旨
まず三井美唄炭鉱事件において、最高裁は労働基本権の趣旨を述べました。憲法第28条には労働基本権について定めており、その中で労働組合を結成することが権利として認められています。
憲法で労働組合を保障している理由は、労働者の権利を守るためです。仮に労働者と会社が対等の立場だと憲法で定めても、個人と組織では経済的な力が全くもって異なります。
いくら個人で対応しようとしても、組織の力に潰されてしまうだけです。そこで労働者が会社と対等になるよう、労働組合を結成する権利を認めました。要するに「個人vs組織」ではなく、「組織vs組織」の構図を作るのが目的です。
労働組合の統制権
次にポイントとなるのが、労働組合に統制権が認められるかです。統制権とは、組合員に対して一定の規制を加える権利を指します。
労働者の立場を守るのが目的ではあるものの、団体である以上は団結力が必要です。そのため合理的な範囲にとどまるのであれば、規制を加えることもできるとされています。
労働組合は政治活動できるか
最高裁の判旨によれば、労働組合による政治活動や社会活動も認められます。労働組合が積極的に政治活動に参加すれば、労働条件の改善や経済的地位の向上を図るきっかけになります。つまり間接的に、労働者の利益につながるわけです。
先ほども説明したとおり、労働組合の主な役割は経済的弱者とみなされる労働者を守ることです。とはいえ交渉だけでは、双方の立場を対等に立たせるのは難しいでしょう。そのため労働者の地位を守るといった目的達成の範囲内であれば、政治活動や社会活動は認められます。
労働組合と選挙運動の推進
政治活動が許されている労働組合は、統一候補を決めることも許されています。労働条件の改善や経済的地位の向上といった目的を達成するためです。したがって統一候補を決定し、積極的に選挙運動する分には問題ありません。
併せて統一候補以外の組合員に対し、立候補しないように勧告・説得してもOKとされています。しかし許されるのは勧告や説得であり、処分ができるかどうかは別問題です。
統制権と立候補の自由
ここで労働組合の統制権と立候補の自由について見ていきましょう。労働組合も団体であるため、一定の統制権が認められることは説明しました。
一方で憲法では、国民に対して立候補の自由を保障しています。立候補の自由は、選挙権を行使する自由と表裏一体の関係を持ちます。つまり選挙権と被選挙権は、本来ならば両方ともしっかりと保障しなければなりません。
もちろん労働組合自体も、目的の範囲内で政治活動することは認められています。先程も説明したとおり、立候補しようとする組合員に思いとどまるよう、説得する分には問題ありません。
しかしその方法にも、一定の限度が存在します。最終的に最高裁は、労働組合の統制権と立候補の自由を比較して正当かどうかを判断すべきと考えました。
最高裁が示した結論
労働組合の統制権と立候補の自由を比較した結果、最高裁は説得に応じない組合員を処分しないのは違法とジャッジしました。一応、判旨では労働組合の説得自体は特に問題視していません。むしろ勧告や説得は、組合として当然の行為と判断しています。
一方で制止を振り切って立候補しようとする組合員を違反者とみなし、処分を下すのは統制権の範囲を超えていると考えたわけです。ややこしい感じもしますが、常識的な判例かなと個人的には思います。
組合員を「処分」するのは、さすがに労働組合もやりすぎだよってコト!
三井美唄炭鉱労組事件のまとめ
三井美唄炭鉱労組事件はややこしいですが、まずは労働組合と組合員の争いであることを押さえてください。立候補したい組合員を、労働組合がルール違反として処分したのがきっかけに争われました。
労働組合も団体であるため、組合員を統制するのを禁止されているわけではありません。しかし憲法には立候補の自由があるため、統制権とどちらが優先されるかを比較する必要があります。
そこで最高裁は、立候補を取りやめるように要求した挙げ句、当該組合員を違反者として処分したのがNGと考えました。単に思いとどまるよう勧告・説得する分には問題ないので、この事件についてもしっかりと理解できるようにしましょう。