ミクロ経済学を学ぶ上では、消費者の視点のみならず生産者の視点を持つ必要があります。
この話は、ミクロ経済学の基本の解説でも触れました。まだ読んでいない方は、ぜひ以下の記事を参考にしてください。
今回は、さまざまな費用を図で表した費用曲線について紹介します。ミクロ経済学の勉強において柱となる部分です。
特に重要な曲線として、限界費用曲線と平均費用曲線が挙げられます。
これらの曲線の解説と「最低点で交わる」の意味及び理由について解説しましょう。
限界費用曲線と平均費用曲線
まずは、限界費用曲線と平均費用曲線の内容を紹介します。
それぞれの言葉の意味と図ではどう表せるかをしっかりと押さえましょう。
限界費用曲線(MC)の定義
最後に限界費用(MC)を紹介しましょう。限界費用とは、生産量を1単位追加したときに費用がどの程度上がるかを示したものです。
MCは「Marginal Cost」の略です。
例えば、テレビ1台を追加で生産したところ、1万円の費用がかかったとします。この場合の限界費用は1万円です。
平均費用曲線(AC)の定義
平均費用(AC)とは、生産活動にかかる費用を平均化したものです。
費用には大きく分けて可変費用と固定費用の2種類があります。
可変費用は、原材料費を代表とするタイミングに応じて価格が変動する費用のことです。
一方で、固定費用は利用している土地や建物の費用が該当します。
「可変費用+固定費用」を総費用と呼びますが、平均費用はこれらを生産量で割り算して求めます。
MCとACは最低点で交わる
限界費用曲線と平均費用曲線の関係性を見ていく上で、外せないポイントが最低点で交わることです。
図で表すと、次のように示されます。
限界費用曲線と平均費用曲線のそれぞれの描き方は後述します。先に最低点で交わる特徴を解説しましょう。
MC=ACになる理屈
限界費用は、生産量の1単位増加あたりに費用がどのくらい上がったかを指します。要するに費用曲線の傾きを示した概念です。
総費用曲線は、以下のように逆S字型で描かれます。
平均費用は、原点から総費用曲線にぶつかる形で描く直線です。
何本か書いていくと、ちょうど総費用曲線に接するところが見つかります。あわせて、こちらは費用の傾きを示す部分です。
最低点で交わる原因は「傾き」
総費用曲線との接線が「MC=AC」になるわけですが、原点からの直線を見ると最も傾きが小さくなります。
平均費用曲線を求める公式は
総費用曲線÷生産量(Y)です。
1次関数の公式で考えれば、平均費用曲線は総費用曲線とぶつかる直線の傾きに該当します。
この考え方を当てはめると「MC=AC」になる部分が最小の値になると分かるでしょう。
「MC=AC」が平均費用曲線の最低点で交わるのは、こうした理由にあります。
総費用曲線とぶつかる直線の「傾き」が平均費用曲線 の高低を表しているんだね!
その通り!だから赤色の点線は平均費用曲線だと「同じ高さ」を示しているよ!
MCの最低点は曖昧
平均費用曲線の最低点は、限界費用曲線と交わることが分かりました。
交わるポイントは、原点から総費用曲線に直線を引いたときの接線に該当します。見つけるのは極めて簡単な部分です。
一方で、限界費用曲線の最低点は図では曖昧になります。限界費用曲線は全て総費用曲線の接線に該当するからです。
傾きが最も小さいポイントが最低点になるのは、平均費用曲線と変わりません。
したがって、総費用曲線の傾きが横軸と平行に近いポイントが該当するところです。
この関係から、限界費用曲線の最低点は平均費用曲線や後述する平均可変費用曲線よりも下に位置します。
限界費用曲線の最低点を示す傾きは「横軸と平行線」なの?
正確に言えば「平行線に近い」かな?
生産量が増えれば総費用は微増するのが基本だからね。
平均可変費用(AVC)
せっかくなので、限界費用曲線や平均費用曲線とともに平均可変費用も覚えましょう。
英語ではAVC(Average Variable Cost)と書きます。定義とグラフを解説するため、内容を押さえてください。
平均可変費用の定義
平均可変費用とは、可変費用を生産量で割り算したときの値です。
AVC=VC(可変費用)÷Y
あくまで可変費用の平均なので、固定費用は考えません。
総費用曲線を使って示す場合、平均可変費用は原点から線を引かないのが特徴です。
固定費用の枠外からスタートする必要があります。
ここからの考え方は平均費用曲線と同じです。総費用曲線にぶつかる線を引き、ちょうど接するポイントが最低点になります。
平均費用曲線の下に描く
平均可変費用曲線は、平均費用曲線の下に描きます。
その理由は、固定費用を考えないため必ず平均費用曲線よりもコストがかからないからです。
総費用曲線と見比べたときの図を見ても、平均可変費用の方が傾きは小さくなります。
以上から、最低点は低い順番に
MC<AVC<ACと並べられます。
限界費用曲線は平均可変費用曲線と平均費用曲線に交わる点も押さえてください。
総費用曲線のグラフ
おまけとして、総費用曲線のグラフの形についても解説します。
このような逆S字型を取る要因は、生産活動の効率性と固定費用の変化にあります。
総費用曲線を大きく①〜③に分類してください。なお、電化製品をつくる会社と想定しながら説明します。
①の部分では、電化製品をつくる工場や機械、材料を全て揃えなければなりません。
要するに、固定費用と可変費用の2点が同時に発生する部分です。コストが多くかかるため、急傾斜となります。
ただし、②になると固定費用はそのままで生産量を増やせます。追加でかかる費用はあくまで可変費用のみです。緩やかな傾斜に変わります。
そこから生産活動を続けていると、現在の工場や設備では追いつかなくなるケースがあります。
新たに工場を設けたり、よりハイテクな機械を導入したりする動きが見られるでしょう。
結果的に、③は傾きが再度急になります。このように理屈を覚えておくと、各費用曲線の形が理解できるはずです。
もう今の工場じゃ電化製品の製造が追いつかないよ!
じゃあ、小さな工場をもう1つ建てようか…。
このときは固定費用 がさらに追加されるから③に該当するね!
まとめ
ミクロ経済学には、さまざまな費用曲線が使われます。
その中でも、最もオーソドックスな限界費用曲線と平均費用曲線は押さえなければなりません。
また、限界費用曲線は平均費用曲線・平均可変費用曲線と最低点で交わる性質を持ちます。
この要因は総費用曲線との接線を引いた際に傾きが同じになるからです。
内容が複雑に感じるかもしれませんが、紹介した具体例も踏まえて覚えてください。