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賃借権の譲渡・転貸とは?無断転貸や解除との関係も併せて解説

公務員試験や行政書士試験では、賃借権の譲渡や転貸に関する問題が出てくる可能性もあります。この分野は応用問題も作りやすいので、事例を思い浮かべながら勉強しなければなりません。

今回は賃借権の譲渡・転貸時のルールや無断転貸についても解説します。賃貸借契約の解除も触れるので、公務員試験・行政書士・宅建試験を受ける方は参考にしてください。

 

賃借権の譲渡・転貸

賃貸借契約は、賃貸人と賃借人の信頼関係に基づいて成立します。賃貸人は目的物を契約どおりに貸さねばならず、賃借人は適切に使用・収益する必要があります。

このような信頼関係を壊す行為が見られたら、契約は破棄されるのが基本的な考え方です。以上を踏まえて、賃借権の譲渡や転貸について解説します。

賃借権の譲渡とは

賃借権の譲渡をイメージできるように説明した図

賃借権の譲渡とは、アパート等を借りる権利を誰かに譲ることです。この法律行為が認められるには、賃貸人(アパートの大家など)からの承諾を得なければなりません。

賃借人からすれば自らの権利を手放しているだけなので、なぜ賃貸人の承諾が必要なのか不思議に感じる人もいるでしょう。

その理由とは、先述のとおり賃貸借契約は信頼関係に基づくためです。もし権利を譲り受けた人物が一文無しだったら、賃貸人は家賃を回収できなくなる恐れがあります。そのため信頼関係に基づき、賃貸人へ話を通さないといけません。

転貸とは

転貸の仕組みについてイメージしやすいように説明した図

転貸とは、賃借人がアパート等を第三者へ又貸しすることです。賃借権の譲渡との違いは、自身が賃借権を放棄しているかどうかにあります。

転貸の場合は、賃借権を放棄しないまま誰かに貸しているので、賃貸人・賃借人の関係は続きます。賃借人が転貸するときも、信頼関係に基づき賃貸人の承諾が必要です。

 

転貸借契約のルール

転貸借契約が認められると、賃貸人・賃借人・転借人に新たな効果が生じます。その効果に関する具体的なルールを解説しましょう。

賃貸人・賃借人と賃借人・転借人の関係

転貸の仕組みについてイメージしやすいように説明した図

まず賃貸人・賃借人の関係についてですが、こちらは通常の賃貸借契約と変わりません。何か賃貸人に権利が生じたら、賃借人へこれまでと同様に行使できます。

また賃借人・転借人の関係も、賃貸借契約と同様の効果が発生します。

賃貸人・転借人の関係

賃貸人と転借人の関係についてわかりやすく示した図

賃貸人と転借人の関係は少し複雑です。まず転借人は賃貸人に対しても、賃料の支払い義務が発生します

仮に賃貸人から賃料を直接請求されたら、転借人は応じる必要があります。この場合、賃借人との転貸借契約にかかる賃料を払ったとしても、それだけでは支払い義務を免れません。

加えて賃貸人・賃借人の契約が終了した場合、転借人は賃貸人に目的物を返還しなければなりません(条件による)。

一方で転借人側は、賃貸人に対する直接的な請求はほぼできないことを押さえてください。仮に費用償還やアパート等の修繕が必要となっても、転借人から賃貸人には直接請求できません。

 

 

賃貸借契約が解除されたら?

賃貸借契約が解除される要因として、以下の3点が主に挙げられます。

  • 期間満了による解除
  • 合意解除
  • 債務不履行による解除

円満に契約が解除されるか、それともひと悶着起こるかで転借人の権利も変わります。ここでは転借人が「目的物を返還すべきかどうか」という視点で説明しましょう。

期間満了による解除

単純に契約期間が過ぎた場合、更新されなかったら賃貸借契約とともに転貸借契約も解除となります。賃貸人は、転借人に対して目的物返還の請求が可能です。

合意解除

期間が満了しなくとも、賃貸人や賃借人の話し合いのもとで契約が解除される場合もあります。しかし賃貸人・賃借人間で勝手に話を進めたら、転借人の権利が蔑ろにされてしまうでしょう。

したがって賃貸借契約の合意解除では転借人に対抗できません。また土地の賃貸借が合意解除されたときも、その上の建物の賃借人には対抗できないと判旨されています。

債務不履行による解除

賃借人が家賃未納などの債務不履行を犯し、契約解除に至ったら民法は賃貸人の味方になります。そのため債務不履行が要因であれば転借人に対しても解除権の行使が可能です。解除する際には、転借人に延滞分の賃料を支払う機会も与える必要はありません。

なお転貸借契約(賃貸人の承諾あり)は、賃貸人が転借人に対して目的物の返還請求をした時点で終了すると判旨されています。

 

 

無断譲渡・無断転貸と解除

賃貸人の承諾を得ず、勝手に賃借権の譲渡および転貸することを無断譲渡・無断転貸と呼びます。無断譲渡・無断転貸により賃借物を第三者に使用・収益された場合、賃貸人は原則として契約の解除が可能です。

しかし解除にも要件が具体的に定められています。ここでは公務員試験や行政書士試験で特に問われそうな内容を解説しましょう。

契約の締結だけでは解除できない

無断譲渡・無断転貸は、賃借人と第三者がただ契約を結んだだけでは解除できません。賃借人が第三者に対し、目的物を使用・収益させて初めて解除権が発生します。

その理由は、民法612条で「使用又は収益させたとき」と規定されているためです。やや間違いやすいポイントであるため、

解除できるのは背信行為のみ

仮に無断譲渡・無断転貸が見られても、それが賃借人の賃貸人に対する背信行為と認められなかったら賃貸人は契約を解除できません。

背信行為も曖昧な言葉ですが、信義に反する(信頼関係を壊す)行為と覚えておきましょう。この場合は賃借人側が、「自身の行為は背信行為ではない」と主張しなければなりません。

無断譲渡と前賃借人

無断譲渡で解除されないときの賃貸借契約の関係を示した図

甲さん(賃貸人)とAさん(賃借人)がアパートの契約を結んだところ、AさんはBさんに無断で権利を譲渡しました。しかし背信行為にはあたらず、甲さんの解除が認められないとします。

このとき賃借人となるのは、Aさんではなく権利を譲り受けた「Bさん」です。前賃借人にあたるAさんは、契約上の債務を負う義務もありません。

 

無断転貸における関係者

賃借人の行為が無断転貸にあたると認められたとき、賃貸人・賃借人・転借人にさまざまな権利または義務が生じます。この関係性がややこしいので、上手く整理して押さえてください。

賃借人と転借人の関係

無断転貸が発覚しても、転貸借契約は基本的に継続したままです。そのため賃借人は、賃貸人から承諾をもらうのが義務となります。

転貸借契約を結んだ場合、賃貸人から承諾が下りなかったことを理由に契約を解除できません。また承諾が下りないと、転借人は目的物を使用できなくなるので担保を用意しないといけなくなります。

賃貸人と転借人の関係

無断転貸を承諾しなかった賃貸人からすれば、転借人は無断で目的物を使用している迷惑な人です。いわば不法占有者にあたるので、不当利得返還請求や損害賠償請求(不法行為による)が認められます。

また賃貸借契約を解除しなくとも、転借人に対して妨害排除に伴う明渡しの請求が可能です。

 

借地上の建物の譲渡・転貸

土地賃貸人・土地賃借人・建物賃借人の関係性を示した図

土地と建物は基本的に一体となりますが、権利は分かれることもあるのでややこしいポイントです。

例えば、ある賃借人が賃貸人から「土地だけ」を借りました。その土地を借りたうえで、土地賃借人自らが家を建てたとします。この「建物」を譲渡・転貸したときの土地の関係についてまとめます。

建物を賃貸した場合

賃借人が自ら建てた家を第三者に賃貸しても、土地を無断転貸したとはみなされません。なぜなら建物を貸すだけなら、賃借人が土地を使っている範囲内であるからです。

建物を譲渡した場合

賃借人が自ら建てた家を第三者に譲渡した場合は、土地も無断で譲渡したとみなされます。この理由は、民法87条(主物と従物)に類推適用される従たる権利にあたるからです。

一般的に従物は、主物が譲渡されると伴に譲渡します。この考え方が適用されるので、土地の賃借権も併せて移動したと考えられます。

建物に譲渡担保権が設定された

賃借人が家を建てた際、債権者から譲渡担保権が設定されることもあります。仮に支払いができなくなると、家の所有権は債権者に移る取り決めです。

もし債権者が家の引き渡しを受け、使用・収益できる状態になったら敷地(土地)の賃借権も譲渡または転貸があったとみなされます。仮に債務者(譲渡担保権設定者)が受戻可能でも、この見解は変わりません。

 

賃借権の譲渡や転貸は判例を中心に勉強

賃借権の譲渡や転貸については、条文も大事ですが何よりも判例を押さえないといけません。賃貸人・賃借人・転借人の関係がややこしいですが、ケースごとに細かく押さえる必要があります。

込み入った問題も作りやすく、公務員試験・行政書士・宅建試験でも狙われやすい範囲です。問題を解くときは簡潔に図で表し、それぞれの関係性をすぐにイメージしてください。