行政書士試験の憲法では、国労広島地本事件について問われることがあります。しかし名前からして覚えにくく、内容を勉強するのが億劫に感じる人もいるでしょう。
この記事では、国労広島地本事件についてわかりやすく解説します。行政書士試験を受験される方は、ぜひ記事を参考にしてください。
国労広島地本事件とは
国労広島地本事件とは、労働組合(X)と脱退した組合員(Y)の間で起こったトラブルです。国労は、国鉄労働組合の略称を指します。地本は「支部」のことであり、広島支部と言い換えてもらうとわかりやすいでしょう。
ここで問題となったのが、組合費の内容です。脱退した組合員のYは、まだ組合費を支払っていませんでした。Yの払っていなかった部分には、安保反対闘争に参加し、処分された組合員を救済するための資金も含まれていました。
Yは組合費が違法な争議行為で発生したもの、任意で支払うものばかりであり、自分に納付義務がないと主張します。労働組合と政治的活動、それに伴う協力義務の有効性が争われました。
労働組合と組合員の対立については、三井美唄炭鉱労組事件も有名です。こちらの事件の細かい内容は、以下の記事で詳しく説明しているので併せて参考にしてください。
三井美唄炭鉱労組事件をわかりやすく解説!行政書士試験対策 - 【資格の教室】ヤマトノ塾
国労広島地本事件の判旨
要するに組合費(お金)を巡るトラブルだったわけですが、最高裁は労働組合の性格と協力義務を強制できるかを争点としています。ここでは最高裁の判旨をいくつかに分けて解説しましょう。
政治活動の協力義務の例外
労働組合は、政治的活動も範囲の一つとされています。ただし政治には各々の思想があり、人によってさまざまな考え方があります。
組合員一人ひとりの権利を守るためにも、労働組合が一方的に政治思想を押し付けるのは許されません。したがって政治的活動を目的とする、協力義務の強制はできないとするのが一般論です。
しかし今回の費用未払問題もそうですが、労働組合の活動が必ずしも政治目的と区別できないのも事実です。政治的活動の側面を持ちつつ、経済的活動の目的が含まれている場合もあります。
そのため政治的活動を持つからといって、絶対に協力義務の強制を禁止できるわけではないとも述べました。労働組合に費用の徴収が認められるかどうかは、目的を細かく解析しなければなりません。
安保反対闘争の資金納付
費用徴収の目的を見ていくうえで、最高裁が注目したのが「安保反対闘争の資金納付」です。ここでは、安保反対闘争の内容と一緒に最高裁の判例を解説します。
安保反対闘争
安保反対闘争とは、2回にわたって行われた日米安全保障条約への反対運動を指します。
日米安全保障条約(安保条約)が結ばれ、日本に在日米軍を置くことが決まりました。しかし当時はアメリカとソ連が対立しており(冷戦)、日本も戦争に巻き込まれるのではと危惧する声も上げられます。
そこで安保条約を廃止すべく、市民や学生の間で過激派による社会運動が起こりました。憲法を勉強するうえで、安保反対闘争は重要なテーマとなるので、合わせて押さえておくとよいでしょう。
資金納付の協力義務の可否
もちろん安保反対闘争も、労働者の立場としての利益に全くもって無関係なわけではありません。しかし一般的には国民として関わる要素であり、本来は国民一人ひとりによって思想や考え方が異なるものです。
したがって政治活動の費用として、徴収を強制するのは原則として認められません。労働組合の思想を、組合員に対して押し付けているためです。
組合員の救済の意図がある
当該資金は安保反対闘争に参加して、処分を受けた組合員を助けるのが目的でした。ここで問題となるのが、組合員の救済目的において資金納付の協力を強制できるかです。
最高裁は、組合員の救済自体は共済活動として許されると述べました。一方で政治活動の一環であることは、判旨でも否定していません。
そこで最高裁が注目したのが、資金納付がY個人の政治思想にどこまで関係してくるかです。労働組合の共済活動には、組織を維持・強化するといった狙いがあります。
要するに処分された組合員の救済を図るのが主たる目的であり、たとえ納付を強制しても個人の政治思想に与える影響は弱いと考えました。結果的に、労働組合の資金納付の請求にも妥当性があると判断されます。
国労広島地本事件の判旨まとめ
長くなったため、最後に国労広島地本事件の判旨を整理しましょう。まずは結論として、今回の事件で勝訴したのは労働組合側です。組合費を支払わずに脱退した組合員に対し、未払い分を請求する権利があると認められました。
しかし安保反対闘争のように、政治的活動の部分において資金の徴収を認めたわけではありません。原則として個人の政治思想に関わる費用は、徴収できないと考えるのが最高裁の見方です。
今回の事件でなぜ徴収が認められたかというと、処分された組合員の救済が費用徴収の目的だったためです。確かに安保反対闘争の問題も関わるものの、何より重きを置いていたのが他の組合員の権利でした。
安保反対闘争にさまざまな考えを持っていても、同じ労働組合の仲間を助けるのは普通の行為といえます。したがって政治思想に対する影響も弱いので、国労広島地本事件では費用徴収の協力義務が認められました。