刑事ドラマを見てみると、犯人を逮捕して「公訴時効前に捕まえたぞ!」と大喜びするシーンがあります。しかし実際には、逮捕をしたところで公訴時効を停止できるわけではありません。
この記事では、公訴時効の停止の仕組みについて逮捕と起訴の違いを中心に解説します。刑法や刑事訴訟法を押さえると、行政書士試験の基礎法学対策にも役立ちます。
公訴時効とは
公訴時効とは、犯罪が終わったあとに一定期間放置すると起訴ができなくなる制度のことです。
あまり納得がいかないかもしれませんが、一部の犯罪には時効が存在します。その理由は時間が経ってしまうと、犯人と断定づける根拠が薄れていくからです。
せっかく容疑者を確保できたと思っても、全くもって無関係の人を逮捕・起訴する危険性もあります。こうした冤罪を防ぐためにも、公訴時効を設けて起訴する制限時間が設けられています。
公訴時効の例
公訴時効の期間は、犯罪の内容によって細かく異なります。罪が重くなるほど、期間がどんどん延びていくと押さえてください。
例えば「今夜あなたの家に忍び込む」とSNSでメッセージを送りました。もし脅迫罪の要件に該当すれば、与えられる公訴時効は3年です。
一方で傷害致死罪のように、法定刑の上限が20年の拘禁刑と重くなった場合、公訴時効は20年間まで引き上げられます。
公訴時効がないケース
罪の最高刑が死刑の場合は、公訴時効が適用されません。仮に50年経ったとしても、発見されたら逮捕および起訴されます。
主な例として挙げられるのが、殺人罪や強盗致死罪などです。
なお令和6年1月に連続企業爆破事件の容疑者だった、桐島聡が発見されました。ガンによって亡くなりましたが、彼もまた公訴時効のない罪を犯したとされる一人でした。
よく勘違いされますが、桐島聡自身は殺人罪の容疑にはかけられていません。
ではなぜ公訴時効が成立しなかったかというと、爆発物取締罰則の最高刑も死刑であるためです。
実際に死刑判決が出るかは別として、あくまで最高刑で判断することを覚えてください。
公訴時効の停止事由
以下の条件を満たすと、公訴時効が停止されます。
- 起訴された
- 犯人が国外にいる
- 訴追を免れるため逃げ隠れする
- 共犯の一人が時効停止した
それぞれのルールをしっかりと押さえましょう。
起訴された
特に勘違いされやすいポイントですが、公訴時効が停止するのは犯人が起訴されたときです。ただ単に逮捕・勾留されただけでは、公訴時効はストップしません。
よくドラマで、時効成立日の前日の深夜に犯人を逮捕して喜ぶシーンが見られます。しかし実際の法律に当てはめると、このケースでは間違いなく時効が成立してしまいます。
起訴と逮捕の違いについては、後段の見出しでも詳しくまとめましょう。
共犯の時効停止
犯人が起訴された場合、その共犯者にも時効の停止の効力が及びます。その理由は、刑事訴訟法において共犯者の扱いを公平にするためです。
この場合において、事件の裁判が確定してから公訴時効は再びスタートします。
裁判の確定とは、不服申立てできず刑の執行に進む状態のことです。控訴や上告を控えているのであれば、裁判は確定したといえません。すなわち起訴された際には、共犯者の時効停止する期間も長くなる場合があります。
ちなみに共犯者の時効の起算点は、最終の行為が終わったらとされています。
犯人が国外にいる
犯人が日本から離れ、海外にいるときは公訴時効が停止します。特別背任の罪に問われている日産のゴーン前会長は、レバノンに逃げたため現在は時効が停止している状態です。
国外にいる状態には、海外旅行を楽しんでいる間も含まれます。犯人の目的に関係なく、日本から出ているか否かが要件です。
逃げ隠れている
犯人が訴追を避けようと逃げ隠れており、起訴状を正式に送付できない(略式命令の告知ができない)場合も公訴時効が停止します。
この書き方をみると
「ほとんどの逮捕されていない人は時効が停止しているのでは」と感じるでしょう。
ただし、実際に当該要件に当てはまるのは少ないとされています。故意であることの証明が必要なほか、逃げ隠れたと認められる程度の状況が明らかにしないといけないためです。
逮捕と起訴の違い
最後に逮捕と起訴の違いについて詳しく説明しましょう。実際の生活で、これらの違いを実感する機会は少ないと思います。とはいえ知っておいて損はないので参考にしてみてください。
逮捕と起訴の定義
逮捕は、主に警察官や検察官が令状をもって容疑者の身柄を拘束することです。ドラマでも犯人の腕に手錠をするシーンが映るので、多くの人はイメージしやすいでしょう。
一方で起訴は、犯人を刑事裁判の審判にかけるよう要求する行為です。
「公訴を提起する」を省略して、起訴と呼ばれます。ちなみに、起訴は検察官のみが持つ権利です(起訴独占主義)。警察官では起訴の判断ができません。
逮捕から起訴の流れ
警察は、犯人を逮捕したら48時間以内に検察官へ送致しなければなりません。
検察官は引き取った容疑者を24時間以内に釈放するか、勾留するかを決めて勾留する場合は裁判所に請求します。
勾留する期間は、原則10日以内です。その間に起訴するかを判断できないときは、もう10日延長することもできます。
その間に起訴できる絶対的な証拠を検察官は押さえなければなりません。
検察官は99%有罪だと判断しない限り、基本的には起訴をしないのでその分の証拠は固めておかないといけないのです。
そのため急いで仕事したとしても、逮捕されてから起訴までは2〜3週間の期間を要します。
公訴時効のまとめ
公訴時効は、あくまで被疑者を起訴するまでの期限です。実際は逮捕されたところで、時効自体はストップしません。逮捕から起訴まで時間がかかってしまうことから、警察や検察は迅速に手続きを進めないといけません。
また公訴時効の話を除いても、時間が経つと証拠力が弱くなります。たとえ犯人が逮捕されても、嫌疑不十分で不起訴となる可能性が高まってしまいます。
このような刑事事件の内容も、もしかすると基礎法学として行政書士試験に出題される可能性があります。基礎法学を重点的に勉強する必要はありませんが、知識の一つとして押さえてください。