行政書士試験にも出題される、有名判例の一つが川崎民商事件です。憲法または行政法の範囲に含まれています。名称は知っているものの、どのような事件か具体的にわからない方もいるでしょう。
この記事では、行政書士試験に一発合格した筆者が、川崎民商事件についてわかりやすく説明します。行政書士試験の受験生は、ぜひ最後まで読んでみてください。
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川崎民商事件とは

川崎民商事件とは、東京都川崎市の民商(民主商工会)の会員であるXが税務調査を受けていた際、調査を妨げたとして刑事事件に発展した事案です。昭和47年11月22日に、最高裁判所が判決を下しました。
この事件をより詳しく知るには、民主商工会と税務調査の仕組みを押さえる必要があります。ここでは、これらの仕組みと憲法第35条1項との関係について見ていきましょう。
民商=小規模事業者による団体
民商とは、小規模事業者により結成された非営利団体です。自営業者や小企業、フリーランスが入会できるのを特徴としています。
民商のメリットは、確定申告や帳簿の作成方法、法人化に向けた戦略などの相談窓口が用意されている点です。複雑な手続きについても、サポートしてくれる味方となります。
一方で約5,000円程度の月会費が発生するため、資金繰りに悩む事業主には支払いが難しいといったデメリットもあります。
加えて日本共産党と共闘関係にあるため、支持していない方からすれば政治的に関与することが嫌だと感じるでしょう。政治的な活動も少なからずあり、会合にも積極的に参加しなければなりません。
税務調査=確定申告の真偽の調査
税務調査とは、納税者の確定申告が誤っていないかどうかを確認する調査のことです。時期や頻度は特に決まっておらず、抜き打ちで調査に来るパターンもあります。
一般的には、税務署から事前通知がなされるため、ある程度の準備期間が与えられます。一方で脱税の疑いが強い事業者に対しては、事前通知をしないことも可能です。
川崎民商事件においても、税務署側が食肉販売業者の過少申告を疑っていたため、事前通知をしていませんでした。当該業者は「通知をしない税務調査はお断り」と拒否しようとし、最終的には刑事事件まで発展します。
なお税務調査は正当な理由なしに拒否すると、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処される可能性もあります。基本的には逃げ切れないため、任意調査でも応じなければなりません。
憲法第35条1項の関係
憲法第35条1項には、何人も住居・書類・所持品について侵害されない権利を有します。住居の不可侵に加え、個人のプライバシーを守る必要があるためです。
仮に国や自治体が、住居の侵入や書類の押収をするのであれば、令状を示さないといけません。しかし逮捕状が発行されている場合、捜索場所や押収する財産を明示した令状がなくても、捜索および押収が認められます。
川崎民商事件では、憲法第35条との関係が主な争点となりました。ここまで押さえておけば、川崎民商事件の内容もイメージしやすくなるでしょう。
川崎民商事件の判例
最高裁は行政調査にも憲法第35条が適用されるものの、税務調査は違法ではないと判旨しました。なぜこの結論が下されたのか、判例の内容をわかりやすく説明します。
税務職員の検査について
最高裁は税務職員の検査が、確かに強制力の伴う作用であると解釈しました。しかし所得税の徴収に必要な資料収集であり、刑事責任の追及を目的にはしていないと結論付けます。
もちろん過少申告が明らかになった場合、脱税の犯罪につながりうる点は考慮しなければなりません。とはいえ調査の対象となっているのは、帳簿や事業に関する物件のみです。刑事責任の嫌疑を基準に、調査の範囲が決められているわけではありません。
また税務職員の検査は、対象者にとって間接的な強制を加えられるものであるのは事実です。一方で直接的物理的な強制と同一視すべき程度まで、強制力が達しているとは認めにくいとしました。
以上から所得税の公平かつ確実な徴収を確保するには、税務職員の検査は不均衡かつ不必要とはいえないと判断します。公益上の目的を実現するうえで、欠かせない制度であるためです。
憲法第35条1項と行政手続
憲法第35条1項には、住居の不可侵など刑事責任手続について定められています。税務調査が刑事責任の追及を目的にしていなくても、それだけで調査の強制が憲法第35条1項の保障の枠外にあるとはいえません。
しかし先程も述べたとおり、税務調査は刑事責任を嫌疑に範囲を決められているわけではなく、公益上の目的の実現に欠かせない制度です。したがって裁判官の令状を要件にしないからといって、憲法第35条に反するとはいえないとジャッジしました。
川崎民商事件の判例を読むには
川崎民商事件の判例は、最高裁判所の判例をインターネットで検索すれば、無料で読むことができます*1。「裁判例検索」の記事に移動したら、期日指定して判決日を入力するだけです。
とはいえPDFで資料がまとめられており、全文を読むのが大変だと感じる方もいるでしょう。そこでおすすめなのが、判例六法を購入することです。
判例六法では、条文と併せて有名な判例も収録されています。サイズ感もコンパクトであるため、カバンに入れるとさすがに重いですが、六法全書よりは持ち運びやすいのが特徴です。
川崎民商事件に関するまとめ
この記事では、行政書士試験の憲法に出てくる川崎民商事件を説明しました。事件の内容を細かく知りたいのであれば、民商と税務調査をイメージできるようになると、理解が進みやすくなります。
税務調査の強制についても、住居不可侵の権利が一切保障されないわけではありません。しかし公益上の目的を実現するうえで、税務調査に違法性はないと判断しました。
川崎民商事件を深く知るには、憲法だけではなく刑法の知識も少し必要となります。行政書士試験の範囲外の内容ですが、憲法の勉強に必要な部分だけは押さえてください。