2021年8月に書いた記事を大幅に修正しました(2023年3月)。
初めてこの記事を書いた頃は、侮辱罪が厳罰化されるか否かを検討している状況でした。政府は、フジテレビの「テラスハウス」の事件もあって刑法を改正します。
SNS等の誹謗中傷による「侮辱罪の厳罰化」は、日本社会を大きく変えたといえます。とはいえ、侮辱罪はどのような条文に変わったのでしょうか。
これまでの罰則とともに、改正後でどう重くなったのかを解説しましょう。また、表現の自由との関係性も取り上げます。
SNSを使われている方は、しっかりとルールを守らなければなりません。投稿には注意が必要です。
以前の侮辱罪
侮辱罪は、主にSNSで誹謗中傷した方が処罰される罪です。
法改正前(2022年4月以前)では、以下のように示されていました。
刑法231条
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。
拘留は30日未満の禁固刑、科料が10,000円未満の罰金刑です。
つまり、例え侮辱罪の罪で逮捕されたとしても、罰は非常に軽いものでした。
- 1ヶ月も経たない牢屋生活
- 10,000円にも満たないお小遣い程度の罰金
侮辱罪に対する厳罰化を求める声が高まり、法務省が令和3年9月中旬の法制審議会で諮問します。話し合いはスムーズに進み、法改正が実現しました。
現行の侮辱罪
では、侮辱罪は一体どのように厳罰化されたのでしょうか。具体的な中身を見ていきましょう。
懲役刑(禁錮)や罰金刑となる
これまで侮辱罪は拘留か科料といった刑罰でも最も軽いものでした。しかし、2022年6月の法改正(7月施行)で次のように示されます。
刑法231条
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、一年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
情報が発達して誰もが簡単に発信できるようになった世の中、侮辱罪を厳罰化したのは大きな進歩になったと思います。
なお、侮辱罪とよく似た犯罪が「名誉毀損罪」です。こちらは、事実を示したうえで相手の名誉を傷つけた場合に罰せられます。
名誉毀損罪の刑罰は、以下のとおりです。
刑法230条
1.公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
侮辱罪と名誉毀損罪の双方とも、懲役刑となる可能性があります。有罪判決となれば、執行猶予が付いても前科者として扱われます。
また、誹謗中傷はときに1人の人間の命を奪いかねない行為です。SNSを使う際には、絶対にマナーを守ってください。
公訴時効が1年から3年へ
そして、実は侮辱罪にはもう1つ重要な変更点があります。
その変更点が、公訴時効の変更です。
今までの侮辱罪は、公訴時効が1年間しか認められていませんでした。たとえ公然と侮辱されたとしても、1年をすぎると泣き寝入りするしかありません。
なお、公訴時効は起訴されるまで進むため、逮捕されただけでは停止しないことも注意が必要です。
公訴時効の具体的な内容は、以下の記事にまとめています。あわせて読んでください。
期間が1年から3年に伸びれば、泣き寝入りするケースが少なくなるかもしれません。
告訴期間は6ヶ月のため注意
期間が伸びるのは、あくまで公訴時効です。
侮辱罪は親告罪であり、被害者本人もしくは法定代理人が告訴しなければ事件として扱われません。告訴期間は、たったの6ヶ月です。
刑事訴訟法第235条
親告罪の告訴は、犯人を知つた日から六箇月を経過したときは、これをすることができない。
期間内に捜査機関(警察や検察)へ、書面か口頭で行わなければなりません。
一方で、事件化を面倒と思う警察が告訴をさせないよう誘導するケースもあります。桶川ストーカー殺人事件では、この問題が浮き彫りになりました。
告訴は、一度取り消したら再度行うことができません。
刑事訴訟法第237条2項
告訴の取消をした者は、更に告訴をすることができない。
悪い警察官は、「この告訴状を一旦取り消しして、また何かあったら提出して」と言うことがあります。しかし、この言葉は事件化を妨げる罠です。
全力で取り組む方がほとんどだと思いますが、告訴のルールはある程度理解した方が得策です。
司法試験用のテキストですが、刑事訴訟法の内容をまとめた本について紹介します。試験を受けない方でも、普段の生活に活かせるよう購入してもいいかもしれません。
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表現の自由との関係性
大半の方が侮辱罪の厳罰化に賛成していた気はしますが、一部この動きに対して反対意見もありました。
特に多かったのは、「表現の自由を侵害するのでは?」といった意見でした。ここでは、表現の自由についても解説します。
なお、表現の自由の具体的な解説はこちらを参考にしてください。
ここで取り上げる内容は、あくまで基本的な部分です。
表現の自由=人権の一種
表現の自由は、日本国民に与えられた人権のひとつです。憲法21条でしっかりと保障されています。
憲法第21条
1項:集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2項:検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
基本的に、表現の自由は「政府の支配や抑圧」から逃れるために定められました。戦前は、国の在り方を批判した方が次々と処罰されました。
戦前の反省を踏まえ、規定されたものです。本来は、政治と国民の関係性について定めた条文といえます。
しかし、情報技術が発達して幅広い人々とコミュニケーションが取れるようになりました。この背景より、現代では個人間でも表現の自由は幅広く保障しています。
「公共の福祉」の制限がある
我々は表現の自由を持ちますが、絶対的に認められている権利ではありません。
公共の福祉により、ある程度の制限を受けます。公共の福祉とは、社会全体の利益のことです。
誰かを誹謗中傷すれば、自分1人は気持ち良いかもしれません。一方で、特定の相手を傷つけてしまいます。
仮に相手がうつ病を発症し、働くことができなければ社会全体の損失に繋がります。その他大勢の関係者にも悪い影響が及ぶでしょう。
そもそも、侮辱罪の規定が表現の自由を脅かすものであれば、刑法に定められるわけがありません。
安易な否定をする前に、憲法や法律の関係性を押さえておくことが大切です。
批判と誹謗中傷は違う
さらに、批判と誹謗中傷は全く異なる概念です。真っ当な批判であれば侮辱罪は成立しません。
罵詈雑言や暴言を吐かず、自分の意見を主張するのであれば問題ありません。
例えば、とあるシェフが気まぐれサラダを作りました。
その感想をレビューする際に
「肉が少し固かった」
「味付けが濃すぎると思った」
と書く分には処罰の対象外です。
シェフは気分を害するかもしれませんが、感想は1つの意見として尊重しなければなりません。
ただし、事実無根の内容や誹謗中傷は店の信用を不当に傷つけてしまいます。良識さえあれば、これらの違いは簡単にわかるはずです。
誹謗中傷の被害に遭われた方は、こちらの記事も参考にしてください。
まとめ
今回は、厳罰化が改正された背景について紹介しました。
これまでは拘留や科料と罪が軽かったのに対し、現行法は懲役刑(禁錮)と罰金刑のいずれかが科せられます。
また、侮辱罪にあたる誹謗中傷自体が相手の命を奪いかねない行為です。
今後もSNSで多くの人々が繋がると予想されます。便利なツールではあるものの、使い方を間違えたら大変危険です。
皆さんも正しくSNSを使いましょう。