公務員試験や法学検定の刑法を勉強していると、間接正犯という用語が頻繁に出てきます。しかし内容があまりイメージできず、困っている方もいるでしょう。
この記事では、間接正犯の定義と教唆犯との違いについてわかりやすく解説します。刑法を勉強されている方は、ぜひ最後まで読んでみてください。
間接正犯とは

間接正犯とは、他人を道具のように扱って犯罪させる行為のことです。間接正犯が成立するには、主観的要件と客観的要件を満たす必要があります。なお他人を道具のように扱う側を行為者、利用される側を被利用者と呼ぶ点も併せて押さえてください。
主観的要件には、自分がやりたいと考えていた特定の犯罪を他人に実現してもらおうとする意思が該当します。この意思に加え、故意であることも要件の一つです。
客観的要件として、被利用者の犯罪行為を行為者によって支配されている状態が挙げられます。心身をコントロールされたり、未成年を利用したりするケースが主な例です。
間接正犯の種類
間接正犯は、方法によってさまざまな種類に分けられます。
- 被害者を利用する
- 故意のない人を利用する
- 責任能力のない人を利用する
- 故意ある道具として利用する
- 被利用者の不作為を利用する
- 適法行為を利用する
それぞれの種類が、どのような状況を指しているか詳しくまとめましょう。
被害者を利用する
間接正犯は、被害者を利用した場合についても成立します。その例として挙げられるのが、自殺志願者の心身を利用するケースです。
たとえば被利用者がSNSで「死にたい」などと投稿していました。その投稿に行為者がアプローチをし、直接会ったタイミングで一緒に自殺するよう話を持ちかけたとします。
「あなたが自殺したあと、私もすぐに自殺する」などとウソをついて毒薬を渡し、相手が自殺したときは殺人罪の間接正犯が成立します。自殺教唆罪よりも重い罪となるので、罪の成立も踏まえて押さえておきましょう。
故意のない人を利用する
犯罪行為について、故意のない人を利用するケースも間接正犯が成立する要件の一つです。たとえばAがBに対し、「あそこにあるマネキンを矢で射てみて」と話を持ちかけます。
弓道部だったBは、マネキンだと思って矢を放ったところ、実はAが以前から恨みを持っていたCでした。Cが死亡した場合、Aには殺人罪の間接正犯が成立する可能性があります。
責任能力のない人を利用する
間接正犯が該当する要件として、責任能力のない人を利用するパターンが挙げられます。主な例となるのが、未成年者を犯罪に利用する行為です。
Aが11歳のBに対し、コンビニで商品を盗んでくるように命令しました。BがAの命令に従い、商品を盗んできたらAには窃盗罪の間接正犯が成立します。
ただしBが善悪の是非を有しており、自らの意思で臨機応変に窃盗をやり遂げました。このときは間接正犯ではなく、共同正犯が成立するのがポイントです。
故意ある道具として利用する
故意ある被利用者について、道具として利用する行為も間接正犯に該当します。このケースは、「身分なき故意ある道具」と「目的なき故意ある道具」の2種類があります。
身分なき故意ある道具とは、身分のない被利用者に対し、身分犯を引き起こすように意思を持たせることです。具体例として、公務員が民間企業で働く友達に賄賂を受け取らせる行為が挙げられます。
一方で目的なき故意ある道具は、目的のない被利用者に対し、目的犯を引き起こすような意思を持たせる方法です。文書を行使する目的のない被利用者に、文書を偽造させる行為が該当します。
被利用者の不作為を利用する
被利用者の不作為を利用した場合も、間接正犯に該当する行為の一つです。主な例として、被利用者を洗脳させて不作為犯を実行させるケースが該当します。
たとえば「人に水や食事を与えないほうが綺麗になる」と嘘をつき、他人を騙していた人がいたとしましょう。ある人がこの嘘を信じて、子どもに水や食事を与えなかったために死亡させてしまいました。
この場合、被利用者の食事を与えないという行為が不作為にあたり、行為者にも間接正犯が成立する可能性があります。
適法行為を利用する
被利用者の行為が犯罪の構成要件を満たしていても、違法性が阻却されるケースもあります。この場合について、被利用者は自分が犯罪行為をしている認識がないため、間接正犯に該当します。
たとえば元々は医師免許を持たない人が、自分の彼女に堕胎手術をしました。しかし彼女の命に危険が生じたため、指定医師に手術をお願いしたとします。
指定医師が手術した場合は、母体保護法により違法性は阻却されます。一方で彼女に命の危険を生じさせた者は、堕胎罪の間接正犯が成立すると判例は見解を示しました。
間接正犯に似ている用語
間接正犯に似ている類型として、教唆犯と共同正犯があります。これらの違いを押さえつつ、区別を付けることが大切です。間接正犯と教唆犯・共同正犯との違いをわかりやすく解説します。
間接正犯と教唆犯の違い
間接正犯と教唆犯の違いは、行為に及んだ者に犯罪しようとする意思があるかどうかです。そもそも教唆犯とは、相手をそそのかして犯罪させる行為を指します。つまり、教唆された相手も「今から犯罪しよう」と思っているわけです。
一方で間接正犯は、被利用者を道具のように利用して犯罪させる行為を指します。そのため被利用者は、自ら犯罪しようとする意思がないのが相違点です。
間接正犯と共同正犯の違い
間接正犯と共同正犯の違いは、共同で犯罪を実行したとみなされるかどうかです。間接正犯は他人に犯罪をやらせるだけで、基本的に自分が直接実行するわけではありません。
一方で共同正犯の場合は、仲間と一緒に犯罪を実行する状態です。たとえばAとBで甲を暴行していました。このときBが直接暴力を振るっておらず、誰か来ないか監視していただけでも、暴行罪の共同正犯となります。
闇バイトは間接正犯にならない?
闇バイトとは、指示役が実行役に指示を与え、詐欺や強盗などを実行させる犯罪のことです。個人情報を入手して、SNSでバラまくなどと脅して犯罪行為をさせます。
相手を利用しているかのように思えますが、正確には間接正犯とはいえません。個人情報を悪用されるリスクがあるとはいえ、実行役も犯罪する意思があるためです。
基本的に闇バイトをしてしまったら、指示役と一緒に「共同正犯」として扱われます。お金に困っていても、決して闇バイトには手を染めてはいけません。
間接正犯についてのまとめ
間接正犯は、他人を道具のように利用して犯罪させることです。被利用者には基本的に犯罪しようとする意思はなく、行為者の思うがままに使われている状態と考えましょう。
また間接正犯に似ている用語として、教唆犯や共同正犯が挙げられます。これらの違いを区別しつつ、今後のニュースなどをチェックしてみるとよいでしょう。