高市早苗氏と野田佳彦氏の間で、ガソリン暫定税率廃止について協力体制を示すと報じられていました。しかしガソリン暫定税率が廃止することで、具体的にどのようなメリットが得られるかを知らない方もいるでしょう。
この記事では、ガソリン暫定税率の仕組みを法律的な観点から解説します。普段自動車に乗る方は、ぜひ最後まで読んでみてください。
ガソリン暫定税率とは

ガソリン暫定税率とは、ガソリン税に上乗せされている税率のことです。この制度が導入されたのは1974年からであり、道路整備の財源確保が主な狙いでした。
そもそもガソリン税には、揮発油税と地方揮発油税の2種類があります。揮発油税単体は24.3円/L、地方揮発油税単体では4.4円/Lが課せられています。
そこから暫定税率として揮発油税に24.3円/L、地方揮発油税に0.8円/Lが課せられるのが現行のシステムです。したがってガソリン暫定税率だけで、25.1円/Lも納めている計算になります。
ガソリン暫定税率導入の歴史
ガソリン暫定税率が導入されてから、今に至るまで制度が大きく変わりました。ここでは、ガソリン暫定税率の歴史について見ていきましょう。
1974年に暫定税率がスタート
先程も述べたとおり、ガソリン暫定税率が始まったのは1974年です。当時の田中角栄内閣は、第7次道路整備五カ年計画を進めようとしていました。
しかし当時はインフラ需要の増大やオイルショックの影響で財政難に陥っており、政府だけでは対応が困難な状態でした。そこで国民の力を借りるべく、暫定税率を一時的な措置としてスタートさせます。
租税特別措置法の改正で恒久化へ
元々廃止するはずだったガソリン暫定税率は、租税特別措置法の改正で引き続き残ってしまいます。高度成長期〜バブル期にかけて、道路整備をどんどん進めたかったのが理由の一つです。
国が道路整備などのインフラに力を入れると、GDPを押し上げる一因にはなります。しかしインフラに力を入れるために、税金を増やしていては本末転倒です。
さらにガソリン暫定税率を無理に肯定しようと、環境対策や財政難への措置などと関係ない理由まで国は持ち出しました。こうしてガソリン暫定税率の恒久化が進み、国民の批判も高まっていきます。
暫定税率が一時的に廃止
2008年の頃、自民党は前年の参議院選で旧民主党に敗れ、旧民主党が参議院の第一党となっていました。一方で衆議院は自民党が与党となる、いわゆるねじれ国会が誕生します。
この当時、旧民主党が批判の対象にしていたのがガソリン暫定税率です。結局は国民から支持を得るためのパフォーマンスだったわけですが、形式上は民意に沿う形でガソリン暫定税率の廃止を目指します。
当時の福田康夫首相は反対の立場だったものの、野党の反対に押し切られる形で、一時的にガソリン暫定税率は廃止されました。しかし、わずか1カ月で白紙となりました。
福田内閣が衆議院で再議決をして、ガソリン暫定税率を復活させる法案が可決されたためです。この行動で国民の怒りはどんどん高まり、旧民主党と政権交代につながる理由の一つとなりました。
一般財源に変更
ガソリン暫定税率が始まった当初は、道路特定財源として徴収されていました。道路特定財源とは、道路の建設や維持するために使われる財源のことです。
高度成長期の頃はインフラ整備で道路の需要も高まったものの、ある程度整備が完了したあとは、財源もあまり関係のない分野まで使われるようになりました。加えて国の財政難が深刻化したため、道路特定財源は廃止となります。
そこからガソリン暫定税率は、一般財源として徴収されていきます。目的が道路整備に限定されなくなったにもかかわらず、依然として徴収が続くことに国民からも批判が集まりました。
なお一般財源に変更したとき、衆参議院ともトップに立っていたのは旧民主党でした。自民党が与党だった頃にはガソリン暫定税率に反対していたはずが、自分たちが政権を握ると変わらず維持し続ける方針を採ったわけです。
当分の間税率とトリガー条項
旧民主党政権は当初マニフェストにガソリン暫定税率の廃止を掲げていましたが、財政難を理由に「名前だけ廃止する」状態となりました。特則税率として制度が残り、当分の間税率と呼ばれるようになります。
ガソリン国会(第169回通常国会)で旧民主党は「ガソリン値下げ隊」を結成し、ガソリン暫定税率の廃止をマニフェストにも掲げていました。しかし結果的に廃止したのは名前だけだったため、国民からも「詐欺的な手法」と批判されてしまいます。
2010年3月31日に旧民主党政権は、租税特別措置法を改正します。具体的には、レギュラーガソリンの価格が160円を超えたときに特則税率分を廃止する「トリガー条項」を設けました。
しかし2011年3月11日に東日本大震災が発生し、財政難を理由にトリガー条項も適用されませんでした。その10年後となる2021年に、ようやくトリガー条項の凍結を解除の案が出ました。
ガソリン暫定税率を廃止するとどうなる
与野党も協議を進めているガソリン暫定税率ですが、仮に廃止されたらどのような変化が生じるかイメージできない方もいるでしょう。ここでは、考えうる影響について紹介していきます。
ガソリン価格が25円/L分下がる
ガソリン暫定税率の廃止により、ガソリン価格は単純計算で25.1円/L分下がります。ガソリン価格は地域によって異なりますが、基本的には1Lあたり166〜180円を推移しています。
仮に180.1円/Lの地域であれば、ガソリン暫定税率が廃止されると155円/Lまで価格が下がるわけです。当然ながら自動車を使う世帯からすると、家計の負担が軽減されるでしょう。
なお経済産業省(資源エネルギー庁)は、ガソリン価格の高騰に対して10円/L分の補助金を適用しています。この補助金も廃止となったら、10円/L分は値上げすると考えてください。
日本における年間のガソリン使用量は、約500Lとされています。25.1円/L分を乗じると、年間で1万2,250円を節約できる計算になります。
地域によって影響は異なる
ガソリン暫定税率が廃止された影響は、どの地域に住んでいるかで異なります。都市部で生活している場合、あまり自動車を使わない方も少なくありません。そのためガソリン暫定税率の廃止について、そこまで影響がない方もいるでしょう。
一方で地方での暮らしでは、自動車は生活必需品ともいえます。都市部と比較しても、恩恵を受けられやすいのが特徴です。
道路の財源に問題があるかも疑問
ガソリン暫定税率の廃止は、インフラ整備にも悪影響が及ぶと心配する方もいるでしょう。特に昨今は道路の老朽化が問題視されており、陥没により亡くなった方もいます。
しかしガソリン暫定税率を廃止しても、ガソリン税そのものが消滅するわけではありません。ほかにも自動車税や軽自動車税など、かつて道路特定財源に使われていた税は存在します。
そもそも一般財源化したのは、これらの税金を教育や福祉にも使えるようにするためです。どうしても足りないのであれば、本来は使い道を優先的に見直さないといけません。
加えて現行制度では、10円/Lあたりの補助金が採用されています。補助金で多額の出費を出すくらいなら、ガソリン暫定税率そのものを廃止したほうが早いでしょう。
ガソリン暫定税率のまとめ
高市早苗氏が新総裁になり、ガソリン暫定税率の廃止がどんどん実現しようとしています。元々野党からも廃止の希望が根強かったため、廃止される確率は極めて高いでしょう。
ガソリン暫定税率を廃止できれば、地方に住んでいる方を中心に人々の生活にも恩恵を受けられます。さらに財源の使い道を見直す良い機会にもなるはずです。