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制限行為能力者の詐術とは?相手方の保護と取消しについて解説

制限行為能力者が勝手に相手方と契約を結んだとしても、基本的に本人や保護者による取消しが認められます。しかし制限行為能力者が「行為能力者である」と詐術したとき、逆に相手方が不利益となる恐れもあるでしょう。

この記事では、行政書士試験に合格した筆者が制限行為能力者が詐術をしたときのルールについて紹介します。相手方がどのように保護されるのか、取消しに関しても取り上げます。行政書士試験を受験される方は、勉強の参考にしてください。

 

詐術とは

詐術とは、相手を騙すために使われる手法のことです。「詐欺」と同じ意味なのではと思うかもしれませんが、厳密に言うと意味が異なります。

民法では、制限行為能力者が自身を行為能力者であると偽るときに用います。詐欺と比べても、詐術は対象が狭くなっているのが特徴です。

自分が制限行為能力者であることを黙秘するだけでは、基本的に詐術には該当しません。しかしほかの言動も相まって相手方を誤信させたり、誤信を強めたりしたことが認められたら、詐術に含まれる場合もあります。

一方で詐欺は、他人を騙して利益を得るといった行為が該当します。刑法だけではなく、民法第96条にも定められています。このように詐術と詐欺は少々意味が異なるので、記述式で文を書くときには注意してください。

 

制限行為能力者が詐術をしたら

制限行為能力者の詐術と相手方との関係性を簡潔に示した図

制限行為能力者が詐術を用いた場合、騙された側である相手方を守らないといけません。民法第21条では、どういった形で保護するかが規定されています。

本人や保護者は取消しできない

制限行為能力者が詐術によって契約を結ぶと、相手方は行為能力者であると勘違いしてしまいます。相手方を守るべく、詐術を用いたときは制限行為能力者からの取消しはできません

実際に契約を結んだ本人だけではなく、保護者もまた取消権を失います。この場合の制限行為能力者は、未成年者・成年被後見人・被保佐人・被補助人全員が該当します。

したがって法定代理人・後見人・保佐人・補助人も、取消権が消滅しうるため注意してください。制限行為能力者の種類は、以下の記事でも詳しく解説しています。

錯誤に基づく取消しはできる

制限行為能力者が詐術を用いて契約を結び、法律行為の要素に錯誤があった場合、錯誤に基づく取消しはできるかが問題となります。たとえば制限行為能力者が土地を1,000万円で売るつもりが、ケタを間違えて100万円と契約書に記載したケースです。

当該事例において、民法では錯誤に基づく取消しを認めています。そもそも詐術によって取消しができなくなる理由は、相手方を保護するためです。

錯誤は表意者保護に基づく規定であり、民法第21条とは直接的にリンクしません。そのため表意者が錯誤に陥っているときは、錯誤取消しが認められます。錯誤については、以下の記事でも詳しく解説しているので参考にしてください。

 

 

制限行為能力者の相手方の催告

制限行為能力者が詐術を用いていなかったとしても、保護者がいつまでも取り消さなかったら、相手方は不安定な立場に置かれるでしょう。こういった場合に備え、民法では相手方に催告権を認めています

しかし制限行為能力者が行為能力者となるか、また誰に対して催告をするかで効果も異なるのがポイントです。そこで各ケースに分けて解説します。

行為能力者となった人への催告

制限行為能力者の状態で契約を結んだものの、取消しするかどうかを待たずに行為能力者となるケースもあります。たとえば未成年者が契約を結び、その後に成年に達した場合です。

ここで押さえてほしいのは、行為能力者の契約は原則として有効に成立することです。したがって期間内に確答がなければ、法律行為を追認したとみなされます。

なお行為能力者になった事例では、相手方は本人にしか催告できません。行為能力者になれば、単独で法律行為ができるためです。

本人に対する催告

変わらず制限行為能力者であるとき、相手方は本人か保護者のいずれかに催告します。本人に対する催告では、制限行為能力者の種類によって効果が変わるので注意してください。

未成年者と成年被後見人について、相手方は本人に対して催告できません。たとえ意思表示をしても、適切な対応をしてくれる可能性が低いためです。これらの者に関しては、保護者に対して催告しなければなりません。

一方で被保佐人や被補助人であれば、本人に対する催告も可能です。期間内に被保佐人や被補助人から確答がないと、契約を取り消したものとみなされます。制限行為能力者の行為は、取り消されるのが原則であるためです。

保護者に対する催告

未成年者・成年被後見人・被保佐人・被補助人と、すべての制限行為能力者において、相手方は保護者に対する催告が認められます。得られる効果も全く同じです。

保護者が期間内に確答しなければ、法律行為を追認したとみなされます。本来であれば、保護者は法律行為を取り消せる立場となります。すなわち期間内に確答しないときは、制限行為能力者の行為を黙認したと判断されるわけです。

 

制限行為能力者の詐術まとめ

制限行為能力者の詐術とは、自身が行為能力者であると偽って相手方と契約を結ぶことです。黙秘しているだけでも、相手方を誤信させたときは詐術が成立する恐れもあります。

詐術によって契約が成立したら、民法は相手方を保護しないといけません。あとから取消しができなくなる点をしっかりと押さえてください。

ほかにも制限行為能力者の範囲では、相手方の催告についても勉強する必要があります。重要な内容が多いので、行政書士試験を受験される際には細かい部分もチェックしましょう。