民法を勉強するうえで、特に欠かせない内容が制限行為能力者です。公務員試験でも絶対に勉強すべき分野といえ、あらゆる範囲に絡んできます。
今回は成年被後見人や被保佐人、被補助人とこれらの保護者にピックアップして記事を書きます。
なお勉強する際には、こちらのテキストも読んでおくことをおすすめします。公務員試験攻略に向けてしっかりと勉強していきましょう。
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制限行為能力者とは
制限行為能力者とは、単独での行為が一部認められていない者を指します。単独の行為が認められない理由は、その人の財産を守るためです。
制限行為能力者の一人として、未成年が挙げられます。例えば小学生の子どもが、勝手にマイホームの購入手続きを行ったとしましょう。このとき、子どもの保護者によって契約を取り消すことができます。
未成年のほかにも、代表的な制限行為能力者として以下の3種類があります。
- 成年被後見人
- 被保佐人
- 被補助人
公務員試験で民法を勉強するうえでは、最初に覚えなければならない用語です。それぞれの人物像をイメージしつつ、どこまでの行為が認められているかを押さえましょう。
成年被後見人
成年被後見人とは「精神的な障害により、事理を弁識する能力を欠く常況である者」です。具体的には重度の認知症を患っている方が該当します。
被保佐人や被補助人と比べても症状が最も重いため、保護者である成年後見人も責任が大きくなります。ここでは、保護者に与えられた権利も併せて見ていきましょう。
保護者には取消権がある
成年被後見人は単独で法律行為ができませんが、後見人の知らない間に契約を結んでしまうこともあります。この場合、保護者である後見人は行為を取り消すことが可能です(取消権)。
基本的にほとんどの行為で取り消しできますが、例外が主に2つほどあります。
- 日用品の購入・日常生活に関する行為
- 婚姻や離婚といった身分行為
日用品の購入や日常生活に関する行為は、次のように押さえるとわかりやすいかもしれません。
- 日用品の購入:食費や文房具代等
- 日常生活に関する行為:電気代の支払い
これらが認められる理由は、仮に単独で行っても本人が著しい損害を負うほどのリスクにはなりにくいためです。結婚や離婚も、本人の意思を尊重する必要があるので後見人は口出しできません。
本人の行為は保護者が代理
本人が法律上の行為をする場合が、保護者が「代理人」という位置づけになります。成年被後見人は正常な判断が難しく、自分で契約を進めるのは難易度が高いためです。
ただし、本人の生活に影響する「家」や「敷地」を売ったり、賃貸借契約を解除したりする行為は家庭裁判所の許可が必要です。
同意権が存在しない
勘違いしやすい部分ですが、後見人は「同意権」を持ちません。同意権は制限行為能力者が法律行為をする際に、保護者が了承することです。
後見人に同意権がない理由は、そもそも成年被後見人が制度の内容を理解しているとは考えにくいためです。
同意とは、性質上許可を得ようとする人が制度について把握する必要があります。そのうえで「自分自身に適しているか」を、事理弁識能力の高い人に確認しているわけです。
成年被後見人の場合、後見人がほとんどの手続きを「代理人」という形で行います。そのため成年被後見人の行為について、同意をする必要すらないわけです。
試験でも引っ掛けとして出題されやすいので注意してください。
保護者は追認権を持つ
本人が勝手に結んだ契約が財産の浪費に繋がらず、むしろ結果的に良くなるケースもあります。その場合は、後見人がそれを後から認めることが可能です。
「追認権」と呼ばれる権利であり、制限行為能力者によって具体的なルールが大きく異なります。
被保佐人
さて、成年被後見人に関する内容をまとめてみましたが、それを被保佐人と比較していきましょう!
成年被後見人より症状が軽いものの、中度の認知症を患っている者が該当します。
そのため、単独でできる行為も成年被後見人より広くなっているのが特徴です。被保佐人にも「保佐人」と呼ばれる保護者がいます。
保佐人に与えられた権利
保佐人は次の権利を持ちます。
- 取消権
- 追認権
- 同意権
取消権を持つかは平成11年まで争われていましたが、法改正で正式に認められました。
後見人との大きな違いは、「同意権」が与えられている点です。被保佐人は成年被後見人と異なり、著しく低いとはいえ事理弁識能力を有しています。
したがって被保佐人が法律行為を行うには、保佐人から同意を得ることが前提となっています。
なお同意が必要な行為は、民法13条にて定められています。全部で10個ありますが、公務員試験では全てを覚える必要はありません(基本的に負担の大きい手続き全般です)。
代理権の扱いが複雑
一方で、保佐人は代理権の取り扱い方がやや複雑になっています。代理権自体は持っているものの、行使するには条件があります。
その条件とは「家庭裁判所の審判を経る」ことです。
家庭裁判所は以下の人物請求があったときは、保佐人に代理権を与えるかを審判しなければなりません。
- 本人
- 本人以外の者
本人とは、「被保佐人」のことを指します。
なお本人以外の者が審判請求する場合には、本人の同意を得なければなりません。保佐人に代理権を与えるかどうかの判断は、むしろ被保佐人の権限ともいえるでしょう。
被補助人
最後に被補助人を見ていきます。被補助人は「軽度の認知症を患っている者」のことです。民法では「事理弁識能力が低い」と記されています。
被補助人は基本的に単独でできる行為が多いため、保護者の権限に規制がかけられているといえます。被補助人の保護者は「補助人」であり、以下の権利を持ちます。
- 代理権
- 同意権
- 取消権
全ての権利が「家庭裁判所の審判を受けたもののみ」に与えられているのが特徴です。
当然に保護者がこれらの権利を持っているわけではないので、試験に出されたら少し注意してみてくださいね。被補助人には自己決定権が他の制限行為能力者と比べて保障されていることが分かります。
3つの能力
最後に、人が持つ『3つの能力』について知る必要があります。
制限行為能力者の内容を押さえる上では、これらの知識も欠かせません。民法には3つの能力が定められています。
- 権利能力
- 意思能力
- 行為能力
それぞれの内容を具体的に解説しましょう。
権利能力
権利能力とは、民法上の権利が認められている状態を指します。
- コンビニで弁当を買う
- アパートの部屋を借りる
- 交通事故の損害賠償を請求する
これらは全て民法が認めている権利です。この権利を使うには権利能力が必要とされ、自然人に限らず法人も持つと考えられています。
つまり、日本では法人を含めた全員に権利能力が認められているわけです。一見すると、権利能力があるのは当たり前だと思うかもしれません。
しかし人の中でも「奴隷」には権利能力が認められておらず、前近代の時代ではそういう人も当然のようにいました。長い歴史で見ると、日本で奴隷制度がなくなったのも最近の話なのです。
現代社会でも、世界中には約5,000万人が奴隷として働いているといわれています。権利能力の有無は、いまだに世界全体における課題となっています。
意思能力
意思能力は、法律行為において自分の意思にしたがって判断できる能力です。意思能力を欠いている人の意思表示は、民法上では無効と扱われます。
元々民法には規定がなかったのですが、2020年の大改正によって第3条の2に追加されました。公務員試験でも問われる可能性はあるので覚えておきましょう。
自分の意思決定がどのような結果を招くかを想像できない人は、意思無能力者(意思能力を欠く人)と判断されます。主な具体例も挙げてみました。
- 10歳未満の幼児
- 泥酔者
ただし、これらはあくまで基準です。実際にはその人の特徴によって、判断基準にも違いがあります。
行為能力
最後に行為能力ですが、これは行為が有利か不利かを判断する能力を指します。
例えば『中古建物が1億円で売られていた』場合を想定してください。普通の感覚であれば「これは高い!」と思いますよね?
しかし、その建物がまるでお城のような家だったら納得いくでしょう。
このようにモノやサービスの価値を理解し、自分の財布状況と見比べて購入の判断をできる能力が行為能力です。
「1人で民法上の行為をできる方」とも言い換えられます。
公務員試験では応用問題も正答したい
今回は制限行為能力者の種類と保護者について細かく解説しました。以下の内容を必ず押さえてください。
- 成年被後見人は事理弁識能力を欠く
- 被保佐人は事理弁識能力が著しく低い
- 被保佐人は事理弁識能力が不十分
それぞれには保護者が付いており、与えられる権力に違いがある点も押さえましょう。
公務員試験においても、成年被後見人・被保佐人・被補助人の内容は極めて重要です。そのため基礎問題のみならず、応用問題も正解できたほうが望ましいでしょう。
また以下の記事では制限行為能力者の取引に着目して、より細かいルールを紹介しています。今回の内容を読んだら、ぜひこちらの記事にも目を通してくださいね。