【資格の教室】ヤマトノ塾

法律・経済学・歴史学の勉強ブログ

大東水害訴訟と多摩川水害訴訟の違い|行政書士試験でのポイント

行政法の国家賠償法を勉強するうえで、紛らわしい判例が大東水害訴訟と多摩川水害訴訟です。これらの違いがわからず、過去問でも間違えたことがある人も少なくないと思います(筆者もその一人でした)。

この記事では、行政書士試験や公務員試験に一発合格した筆者が、大東水害訴訟と多摩川水害訴訟の違いを解説します。試験対策として、ぜひ参考にしてください。

 

国家賠償法第2条

※画像はイメージです

大東水害訴訟と多摩川水害訴訟を見る前に、国家賠償法第2条を正しく押さえる必要があります。こちらは「公の営造物」の設置や管理に瑕疵があり、他人に損害を与えたときに国や自治体の賠償責任を認める条文です。

公務員の国家賠償について定めた第1条は、個人の故意や過失を前提としています。一方で第2条の場合、故意や過失がなくとも賠償責任を認めるのが特徴です(無過失責任)。第1条は、以下の記事でも説明しているので併せて参考にしてください。

 

大東水害訴訟

大東水害訴訟は、大阪府大東市の河川が引き起こした浸水事故です。昭和59年1月26日に最高裁が判例を示しており、百選にも選ばれています。

未改修河川による事故

大東水害訴訟で押さえたいポイントは、未改修河川が引き起こした事故であることです。元々周辺は浸水被害を受けていたため、河川の改修工事が行われていました。

支流の改修工事が未完成だったころ、この部分で溢水(いっすい)が発生します。この溢水により付近住民Xの家屋が床上浸水し、Xは国・大阪府・大東市に対して国家賠償請求訴訟を起こしました。

河川と道路の性質の違い

最高裁は、河川の管理が道路の管理と性質が異なることを指摘します。河川は常に自然災害をもたらす危険があり、洪水等の危険に対処しなければなりません。

堤防の安全性を高めて流路も整えつつ、ダムや遊水地の設置といった治水事業が当初から予定されています。莫大な費用がかかることから、過去の氾濫状況を比較しつつ、程度の大きい部分から優先的に直していくのが一般的です。

つまり河川の改修には、膨大な時間とコストが発生することを念頭に置いています。

未改修河川=過渡的な安全性で足りる

以上から未改修河川の安全性においては、過渡的な安全性で足りるとするのが結論です。過渡的とは「ある状態から新しい状態に移る途中」という意味で、将来的な改修予定も踏まえた整備でよいことを示しています。

要するに現時点で100%の被害の防止を求めるのではなく、一時的に対策をしていればOKとしました。さらに瑕疵があるかどうかは、過去に発生した水害事故や自然的条件を照らし合わせ、同種・同規模の河川の管理における一般水準と比較されます。

結果的に大東水害事件では国や自治体側の瑕疵が見られず、原告Xの国家賠償請求は認められませんでした

 

 

多摩川水害訴訟

多摩川水害訴訟は、大東水害訴訟よりも後に争われた事件です(最判平成2年12月13日)。大東水害訴訟との違いに目を向けつつ、詳しく説明しましょう。

改修済河川による事故

大東水害訴訟との大きな違いは、改修済河川による事故である点です。改修済河川の一部が決壊したことで、住民Xの暮らす家が失ってしまいます。そこでXは、多摩川区の管理者Y(国)に対して訴訟を提起しました。

河川の安全のあり方

まず最高裁判所は、河川の安全のあり方について触れています。河川の実態を踏まえると、当初から通常有すべき安全性が確保されているわけではありません。治水事業を経て、順を追って安全性が高まっていくと述べました。

そのため水害の防止に足りる安全性が備わっていなかったとしても、直ちに管理に瑕疵があるとはいえないとします。大東水害訴訟でも判旨されたような、水害の規模や自然的条件といった事情や河川管理の一般的水準も加味すべきとしました。

改修・整備された河川の安全性

多摩川については、工事実施基本計画に照らして新規の改修や整備が必要ないとされていました。当該部分における安全性は、同計画に定める洪水や流水といった通常の作用から、予想できる災害を防止するに足りるものとされています。

要するに改修された時点ですでに予測・回避しうる、水害を防止するのに足りる安全性が必要です。水害のあった時点で安全といえなければ瑕疵があるとみなされ、国家賠償請求も認められるとしました。

 

両事件の違いを整理しよう

※画像はイメージです

ここまで各判例の内容を細かく紹介しましたが、次に両者の違いを比較したうえで解説します。どのような相違点があるかをしっかりと押さえてください。

未改修か改修済か

大東水害訴訟は、未改修の河川について争われたものです。河川は治水事業の繰り返しで、徐々に十分な安全性が備わると考えられています。したがって過渡的な安全性で足りるとするのが最高裁の判旨です。

一方で多摩川水害訴訟は、改修済の河川による被害が問題になった事件です。一度改修しているがゆえ、安全性の判断も水害の時点で予測・回避しうる被害を防止できるものでなければなりません。

国家賠償請求ができるかどうか

大東水害訴訟は、結果的に被告は国家賠償請求訴訟ができないと判旨されました。一方で多摩川水害訴訟については、最終的に国家賠償請求ができると結論付けられています。

これらの判例は「管理の瑕疵」にかかる基準は異なるものの、結論を導くまでの過程にそこまで大きな違いはありません。ただし最終的な結論は異なるので、こちらも併せて押さえてください。

大東水害訴訟の判例は否定されていない

後から発生した多摩川水害訴訟での判例は、大東水害訴訟の「過渡的な安全性」という見解を明確に否定したわけではありません。ただし多摩川の場合は「改修済」であったため、大東水害訴訟の事例を判断基準にしつつ、具体的な見解を示したのです。

以上から、判例の表現でも「改修・整備段階に対応する安全性」と書き換えられています。両者は見解が対立しているわけではなく、むしろ補い合っているといえます。

 

2つの訴訟に関するまとめ

この記事では、大東水害訴訟と多摩川水害訴訟の違いについて解説しました。まずは国家賠償法第2条は、原則として無過失責任が採用されていることを押さえてください。

次に大東水害訴訟と多摩川水害訴訟の違いを、区別できるようにする必要があります。行政書士試験や公務員試験でも、狙われやすい判例の一つです。未改修と改修済の双方で、どのように異なるかを押さえるようにしましょう。