行政書士試験の民法と商法では、寄託契約の内容も一応は範囲に含まれています。寄託契約で特に重要な部分は、民法と商法における善管注意義務の違いです。
正直なところ、行政書士試験で寄託契約が出題される可能性はかなり低いでしょう。しかし今後のステップアップを踏まえると、知っておきたい内容の一つです。
この記事では、民法と商法における寄託契約と善管注意義務の関係を詳しく解説します。行政書士試験の勉強をされる方は、ぜひ内容を押さえてください。
寄託契約とは
寄託契約とは、物の管理をお願いする契約です。皆さんも持ってきたカバンを、友人に預けることがあるでしょう。厳密に言えば、この場合も友人と寄託契約を結んでいるといえます。まずは、寄託契約の基本的な内容について説明します。
寄託契約の法的性質
寄託契約の法的性質は、片務・無償・諾成・不要物契約です。しかし寄託契約は、有償契約で成立する場合もあります。有償契約であれば、片務契約から双務契約に変わります。
寄託契約が成立するには、相手方の承諾が必要です。これらの基本的な法的性質は、とりあえず押さえておきましょう。
寄託者と受寄者の関係
寄託契約において、物を預ける人は寄託者と呼びます。逆に物を預かる側は、受寄者です。基本的に寄託契約は、この2人の関係で成立します。
受寄者は、寄託者の承諾がなければ預かっている物を使用できません。併せて寄託者の承諾を得たときか、やむを得ない事由がなければ、預かった物を第三者に保管させることができないとされています。
ちなみに受寄者から物をさらに預かった人は、再受寄者と呼びます。再受寄者は、受寄者と同一の権利・義務を負うのがポイントです。
寄託契約の解除等
受寄者が荷物を預かるまでは、寄託者側から契約の解除ができます(675条の2の1項)。ただし契約を解除することで、もしかすると受寄者側に不利益が生じるかもしれません。この場合は、寄託者に対する損害賠償請求も認められます。
無報酬の寄託契約であれば、物を受け取るまで受寄者側からも契約の解除が可能です。ただし、書面による寄託契約は例外的にこのような解除が認められません。
一方で受寄者が物を受け取る時期を経過したにもかかわらず、寄託者側が物をいつまでも渡さない場合もあります。この場合において、相当の期間を定めて引き渡しの催告をして、期間内に引き渡しがされないときは契約の解除が可能です(第675条の2の3項)。
民法第675条の2の3項について、無報酬の場合は書面で契約をした者に限られます。無報酬のケースが、ルールもやや複雑なので注意してください。
寄託契約と善管注意義務
寄託契約においては、善管注意義務が適用されるかどうかも重要なポイントです。善管注意義務とは「善良な管理者の注意義務」を略した言葉であり、自己の財産に対するのと同一の注意義務よりも責任が重くなります。
寄託契約の場合、無償か有償かで注意義務の程度が異なります。それぞれに分けて、どういった義務が生じるかを解説しましょう。
無償の寄託契約の場合
無償の寄託契約は、自己の財産に対するのと同一の注意義務が生じます。要するに、自分の所有物の場合と同じくらい注意していれば問題ありません。
受寄者は報酬がないにもかかわらず、わざわざ寄託者の荷物を保管しています。仮に寄託物が紛失・破損しても、有償の寄託契約と同等の注意義務を課せられるのは理不尽でしょう。
そこで注意義務の程度を軽減し、受寄者の責任をなるべく小さくさせるのが狙いです。なお自己の財産に対するのと同一の注意義務という言葉は、行政書士試験の内容では基本的に無償の寄託契約くらいしか出てきません。
有償の寄託契約の場合
次に受寄者側が報酬を得られる、有償の寄託契約の場合について解説しましょう。このケースでは、無償契約とは違って受寄者には善管注意義務が働きます。
報酬を得る分、受寄者側も相応の責任を持って寄託者の物を管理しなければなりません。不注意によって物を紛失・破損してしまうと、損害賠償請求が認められる可能性も高まります。
商法における寄託契約
最後に寄託契約について、民法と商法の違いを解説します。民法の寄託契約は、無償であれば自己物同一注意義務、有償であれば善管注意義務が必要です。
一方で商法の場合は、無償・有償どちらとも善管注意義務が課せられます。民法の内容と混同しないように注意してください。
商法は、文字通り人々の商行為について定めた法律です。仮に無償であっても、ビジネスでサービスを提供しているときは商人としての責任を果たさないといけません。
したがって民法の規定とは異なり、無償の受寄者にも善管注意義務が働きます。とはいえ行政書士試験では、そもそも商法からの出題も1問程度しかありません。寄託契約と同様に優先して覚えるべき分野ではないものの、今回のブログを読んだ方は頭の片隅に入れておいてくださいね。
寄託契約・善管注意義務まとめ
寄託契約では、善管注意義務の内容について問われる可能性があります。しかし民法の中でも出題頻度はかなり少なく、優先して覚えないといけない範囲ではありません。
ただし難易度はそこまで高くないので、勉強に余裕のある方はひと通り確認してみるのもよいでしょう。商法でも寄託契約は出てくるので、民法との違いを区別できるようにしましょう。