2023年2月24日に開かれた法務部会で、刑法177条の強制性交罪が不同意性交罪に名称を改めると示されました。
こちらの改正が行われたら、いわゆる刑法177条の厳罰化が進みます。
一見、この改正は性を守る取り組みとして素晴らしいものに見えるかもしれません。
しかし、運用次第では大きな課題を生む危険性もはらんでいます。
不同意性交罪の条文と8つの項目、問題点を解説しましょう。
不同意性交罪の条文
まずは、不同意性交罪に名称が改められたときに条文が変わるのかを解説します。
そのためには、はじめに強制性交罪の内容を把握しなければなりません。これらを順番に説明しましょう。
強制性交罪
強制性交罪は、刑法177条に定められています。罰せられる対象を2つに分けていることが特徴です。
まずは、条文を確認してみてください。
第百七十七条 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛こう門性交又は口腔くう性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。
引用:e-GOV法令検索
これらが指す内容を細かく記述しましょう。
暴行と脅迫による性行為が要件
強制性交罪の要件は、暴行と脅迫の2つです。力づくや脅しで支配する性行為は犯罪となります。
暴行と脅迫と認められる基準は、相手の反抗を著しく不可能にすることです。
自分が暴力を奮って、仲間に性行為をさせる行為は「共犯」とされます。
行為に加担した方が被害者と同性でも、判例は共犯の成立を認めました。
薬やアルコールで意識を朦朧とさせた場合は、準強制性交罪の対象です。罪の重さは5年以上の懲役であり、強制性交罪と変わりありません。
13歳未満は性行為した時点でアウト
同じく刑法177条では、13歳未満が被害者のケースについて定めています。
こちらは一般的な強制性交罪とは異なり、性行為をした時点で構成要件に該当します。絶対に13歳未満には手を出さないようにしましょう。
なお、今後は未成年の年齢が16歳に引き上げる試案も提出されています。
13〜15歳の少年・少女との性行為は、5歳以上離れている方は当該条文で罰せられるかもしれません。
現行法では、青少年健全育成条例で処罰される運びとなっています。
処罰が条例から法律に変われば、罪の重さが全く異なるため注意してください。
- 青少年健全育成条例(東京都)…2年以下の懲役又は100万円以下の罰金
- 強制性交罪…5年以上の懲役
なるべく未成年と性行為の形で関わらないようにしましょう。
不同意性交罪
では、不同意性交罪の条文はどのように変わるのでしょうか。
まだ、法改正案が提出された段階なので具体的に決まったわけではありません。
今のところの予定では、「暴行や脅迫」の要件のほかに新たな条件が追加される予定です。
「性的行為に同意しない意思を形成、表明、全うすることが困難な状態にさせたり、そうした状態に乗じたりして、性的行為をした場合」が案とされています。
ただし、この条文だけでは具体性がありません。そこで、不同意性交罪の実施にあたり8つの項目も提案されました。
不同意性交罪の項目8つ
不同意性交罪の8つの項目を上から並べましょう
- 暴行・脅迫
- 心身に障害
- アルコール・薬物
- 睡眠・意識不明瞭
- 不意打ち
- 恐怖・驚愕
- 虐待
- 地位の利用
上から内容を簡単に説明します。
暴行・脅迫
暴行・脅迫は、現行法で既に定められている内容です。文字通り、暴行や脅迫で相手を脅して性行為に走る人を対象としています。
心身に障害
性行為をするにあたり、心身への障害を生じさせた人も不同意性交罪の対象です。
「心身」であるため、精神障害も対象になりうると押さえてください。
PTSDを与えるような行為は絶対に避けましょう。
アルコール・薬物
準強制性交罪で対象とされていた項目も盛り込まれています。
確かに刑罰の内容が変わらない以上、これらを1つにまとめても運用上は問題ないかもしれません。
特に薬物は相手を死亡させてしまうリスクもあります。絶対に手を染めてはなりません。
睡眠・意識不明瞭
相手が寝ている隙を見て、襲うような行為も要綱で罰の対象とされています。
こちらは、アルコールや薬物とも結び付く内容です。現行法では、準強制性交罪の枠組みでした。
これらの内容も1つにまとめるのであれば、刑法178条は削除になるかもしれません。
不意打ち
睡眠や意識不明瞭以外にも、不意打ちで襲われるケースも起こりえます。
今回の改正では、同意のない性行為は徹底的に処罰の対象となりそうです。
ただし、不意打ちのケースに関してはお互いに立証が難しそうだなと感じます。
恐怖・驚愕
相手を恐怖または驚愕に陥らせ、性行為へ走ることもアウトです。
脅迫とも関連しそうな内容となっています。とはいえ、恐怖や驚愕も抽象的すぎる気がします。
このあたりは、問題点において細かく解説しましょう。
虐待
残念ながら、親には性的虐待を行う人も一定数います。
統計的にはそこまで多くありませんが、さらに減らす動きは大切です。
一方で、親子関係であれば刑法179条に監護者性交罪がすでに存在しています。
不同意性交罪は、このあたりも含めた内容となるのかもしれません。
地位の利用
会社の上司と部下など、逆らえない地位を利用した行為も刑罰の対象です。
このあたりも、もしかすると隠れた被害者が多いのかもしれません。
しかし、反対に「地位」が利用されて騙されるケースも考えられます。裁判では揉めるポイントになりそうです。
不同意性交罪の問題点
僕自身は、同意のない性行為から男女を守る取り組みは大事だと思います。
一方で、刑事訴訟をするときは「真実の追及」もまた欠かせません。
不同意性交罪が抱える問題点をいくつか紹介しましょう。
故意犯処罰の原則との関係
あまり知られていませんが、日本の刑法には故意犯処罰の原則が働きます。
簡単にいえば、罪を意図的に犯そうとした行為は処罰しない原則です。
第三者が見ても「同意のある性行為」と認識できれば、本来不同意性交罪では処罰されません。
しかし、この事実を立証するのは非常に難しそうです。
なお、「もしかしたら犯罪かもしれない」と思いつつも、罪を犯したら未必の故意で処罰されます。
特殊詐欺の受け子が捕まるのも、封筒の受け渡しだけで多額の報酬がもらえるのは怪しいと思うだろうと解釈されるためです。
未必の故意の有無を争えば、間違えたジャッジを下す危険性があります。
冤罪の立証が難しい
故意犯処罰の原則とほぼ同じですが、冤罪の立証は非常に難しいと考えられます。
特に不意打ちや恐怖・驚愕、地位の利用は要件が曖昧です。証拠を形に残すことは基本的にできないでしょう。
このあたりは、裁判でもどう判断されるかが予想できません。
地裁では、それぞれ違った解釈が生まれる可能性も大いにあります。
日本は法律の認知度が高くなく、一度逮捕されたら大きなハンデを抱えます。
しかし、逮捕はあくまで取り調べの一環で必ずしも悪と決めつけられるものではありません。
冤罪の可能性も十分残っていることを知り、冷静に今後の動向を見る姿勢が重要です。
被害者が泣き寝入りすることも
証拠不十分で誤ったジャッジを下される危険性があるのは、容疑者だけではありません。
反対に被害者が泣き寝入りするケースもあります。基本的に、被害者の証言は十分な証拠のひとつです。
しかし、ほかに証拠が見つからないと嫌疑不十分で不起訴になる可能性もあります。
裁判がきっかけで、さらなるトラブルを生んでしまうかもしれません。
性行為は人格にも大きな影響を及ぼします。被害者を守る取り組みは重要ですが、中途半端に始めると逆に傷つけかねません。
デリケートな問題であるからこそ、慎重な決断が求められます。
まとめ
今回は、強制性交罪から不同意性交罪に変更したニュースを紹介しました。
強制性交罪の適用される範囲が広くなり、被害者を守る取り組みが整備されるようになります。
しかし、条文が実際にどこまで効果を発揮するかは運用してみないとわかりません。
冤罪をつくるだけではなく、被害者が泣き寝入りするケースも起こり得ます。
信頼できる異性と繋がれるよう、人を見る目も大切にしましょう。