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選択的夫婦別姓とは?日本で反対される理由をわかりやすく解説

日本では、選択的夫婦別姓を唱える方も少なくありません。しかし夫婦同姓を安易に廃止してしまうと、日常生活でさまざまなリスクが発生する恐れもあります。

この記事では、選択的夫婦別姓の定義やデメリットをわかりやすく解説します。日本でも旧姓を名乗れる場面も説明するので、当該問題を勉強されている方はぜひ参考にしてください。

 

選択的夫婦別姓とは

選択的夫婦別姓とは、婚姻している夫と妻で苗字を別々にすることです。たとえば男性の佐藤さんと女性の鈴木さんが結婚しました。

現在の日本のルールでは、苗字を佐藤もしくは鈴木に統一しなければなりません。一方で選択的夫婦別姓を採用した場合、彼らはお互いに自分の苗字を名乗れるようになります。

一見すると、行政の手続きなどが簡略化されるため、便利な制度のように思えるでしょう。しかし選択的夫婦別姓には、さまざまなデメリットが存在するのも事実です。

 

日本の夫婦同姓と法律

日本の夫婦同姓のルールについては、民法や戸籍法によって定められています。これらの規定を詳しく見ていきましょう。

民法第750条

まず日本の夫婦同姓を定めた規定が、民法第750条です。民法第750条には、夫婦が婚姻する際に夫または妻の氏を称する旨が定められています*1

夫婦が離婚したときは、苗字を変更した一方は元の氏に戻ります。ただし離婚の日から3カ月以内に届出をすれば、婚姻時に称していた苗字をそのまま使うことも可能です。

死別の場合は、婚姻時に称していた苗字は原則として変更されません。一方で市町村役場で届出をすると、元の氏に戻すことも認められています。

なお民法と婚姻や離婚に関するルールは、以下の記事でも詳しく解説しているので、法律を勉強される方は併せて参考にしてください。

戸籍法第74条1号

戸籍法第74条には、婚姻する際の届出について定められています。届出書には、以下の事項を記載しなければなりません。

  • 夫婦が称する氏(第1号関係)
  • その他法務省令で定める事項(第2号関係)

実際に婚姻届を見てみると、婚姻後の夫婦の氏にチェックを入れる仕様となっています。両方にチェックを入れたら、婚姻届は無効となるので注意しましょう。

最高裁判例の見解

日本ではじめて選択的夫婦別姓の案が上がったのは、1996年のころです。そこから年数が経ち、2015年には最高裁で選択的夫婦別姓に関する見解を述べました。

最高裁は夫婦同姓を定めた民法第750条は、憲法に違反しないと判決を下します。その理由は、日本国憲法において氏を変更しない理由は保障されていないためです。

また日本国憲法第24条2項では、婚姻は両性の本質的平等に基づくと規定されています。この規定から見ても、いずれかの氏に統一することは本質的平等に違反しないとジャッジしました。

 

選択的夫婦別姓が反対される理由

選択的夫婦別姓が日本で反対される理由には、以下のデメリットが挙げられます。

  • 世間から偏見を受けやすい
  • 子どもを傷つける恐れがある
  • 戸籍制度の見直しが必要となる
  • 公的サービスの運営が難しくなる
  • なりすまし犯罪に利用されやすい
  • 移民の増加につながりうる

具体的にどういった点で問題を抱えやすいか、詳しく見ていきましょう。

世間から偏見を受けやすい

選択的夫婦別姓が採用されたところで、社会にすぐ根付くのは難しいでしょう。特に住民同士のつながりが深い地域であれば、偏見が生まれる可能性もあります

仮に自分が気にしていなくても、配偶者のほうが耐え切れないといったケースも考えられます。同姓と別姓のどちらを選ぶかで、夫婦同士が揉めてしまったら本末転倒です。

特に日本は、古くから家族間のつながりを大事にしています。いくら選択的夫婦別姓が世界で進んでいたとしても、伝統はそれぞれの国で異なるため、導入するかどうかは慎重に選ばないといけません。

子どもを傷つける恐れがある

子どもからすれば、父と母は同じ苗字がいいと考える方も少なからずいるはずです。しかし親は自由に苗字を選べるかもしれませんが、子どもにとっては選択権がありません

また夫婦別姓を採るのであれば、子どもは父と母のどちらかの苗字を選ぶ必要があります。この選択を巡り、家族間で揉めごとが起こる可能性も否定できません。

さらに兄弟が生まれ、兄は父親の苗字を選び、弟は母親の苗字を選ぶといったケースも出てきます。そうすれば、家族間のつながりがどんどん弱くなるでしょう。

ほかにも父と母の苗字が違うために、学校でいじめられるといったケースも考えられます。子どもの将来も踏まえると、選択的夫婦別姓はリスクも少なからずあります。

戸籍制度の見直しが必要となる

日本は従来から夫婦同姓を採用しており、現代の戸籍では別姓を考慮していません。そのため選択的夫婦別姓を採るのであれば、戸籍制度を一から見直す必要があります

各市町村役場では、住基システム等もアップデートしなければなりません。これらを一から修正するには、多額のコストがかかってしまうでしょう。

これらのコストを回収すべく、政府が国民に増税を強いる可能性が出てきます。選択的夫婦別姓を採用することで、私たちの生活に負担がかかるケースも少なくないわけです。

公的サービスの運営が難しくなる

夫婦がそれぞれ別の苗字を使うと、公的サービスの運営も難しくなります。戸籍が複雑になってしまえば、マイナンバーカードや住民票の記載事項を増やす必要があります。

これらのシステムも直したら、さらにコストを用意しなければなりません。そうすれば、増税につながる可能性が高まるでしょう。

また親と子どもの苗字が違うと、客観的に血縁関係の有無を判断できません。あらゆる手続きで戸籍謄本の発行が必要になり、余計なコストを支払う必要が出てきます。

なりすまし犯罪に利用されやすい

選択的夫婦別姓が反対されるのは、なりすまし犯罪に利用されやすい点も理由の一つです。夫婦間で苗字が異なると、家族は全員同じ「氏」という判断基準が崩れてしまいます

極論を言えば、苗字の違う子を引き連れて「親子」と名乗っても、夫婦別姓が採用されたらバレない可能性も出てくるわけです。そうすると社会秩序にも悪影響が及びます。

無論、このような犯罪を見越して、国側もさまざまな対策を講じるでしょう。その結果、夫婦同姓では必要のない手続きも生まれ、むしろ面倒な社会になってしまいます

移民の増加につながりうる

夫婦同姓は、日本ならではの伝統的な制度です。この考え方さえも壊してしまったら、日本と欧米諸国との違いがどんどんなくなってしまいます。

仮に欧州の考え方を採用する世の中になると、移民の受け入れなども強要される可能性が高まります。このように夫婦別姓は、さまざまな場面で悪影響を及ぼしかねません。

国独自のルールや考え方を持つと、国防や社会秩序にとってもプラスに働きます。長い歴史があるからこそ、古来の日本の価値観を守り続けることも大切です。

 

日本で旧姓を名乗れるケース

夫婦同姓を採用している日本ですが、場面によっては旧姓を使っても全く問題ありません。ここでは、夫婦別姓を選べるケースについて見ていきましょう。

職場で働くとき

日本の会社では、一般的に旧姓を名乗っても問題ありません。筆者も市役所で働いていた時期がありましたが、結婚されている方の半分くらいは旧姓をそのまま使用していました。

職場で旧姓を名乗るメリットは、同僚や顧客から見ても紛らわしくない点です。呼び方を改める必要がないため、結婚前と変わらず関係を保てます。

また結婚後に提出する書類も、旧姓を名乗る場合はある程度少なくできます。わざわざ選択的夫婦別姓を採用しなくても、ここまで制度が整っていることを押さえてください。

一部の銀行での取引

金融機関によってルールは異なりますが、一部の銀行では婚姻したあとも、旧姓での取引に対応可能です。仮に改姓した名義でお金が振り込まれても、きちんと通帳には反映されます。

ただし旧姓での取引に応じていない銀行もあるため、取引先のルールをしっかりと確認してください。一般的に銀行は旧姓での取引に対応できる機関が多い一方で、信用組合では少なくなる傾向にあります。

選挙の出馬

選挙に出馬するときも、旧姓を名乗っている方は少なくありません。選挙で勝つためには、多くの有権者に名前を覚えてもらう必要があります。

改姓した氏よりも、旧姓のほうがインパクトのあるケースも少なからずあるでしょう。このような場合は、旧姓を使うメリットが大きいといえます。

なお現内閣総理大臣の高市早苗氏は、法律上の苗字も「高市」です(正式には髙市)。彼女は山本拓氏と再婚していますが、公平にジャンケンした結果「高市」の苗字に決まったようです。

一方で山本拓氏は、高市早苗氏と婚姻したあとも「山本」を名乗っています。そのため政治上は「山本拓」ですが、戸籍上の名前は「髙市拓」です。

 

選択的夫婦別姓のまとめ

選択的夫婦別姓を採用すれば、一時的な行政の手続きにかかる負担は減らせるかもしれません。しかし無理に夫婦同姓を廃止すると戸籍や行政サービス、日常生活にさまざまな問題が生じます

夫婦同姓は、明治民法から採用された伝統ある制度です。こうした伝統に関するルールは、慎重に議論する必要があります。

筆者も結婚をしており、自分自身が改姓しました。正直なところ、苗字を変更する手続きもそこまで面倒ではありません

子どもの将来や日本全体の社会を考えると、選択的夫婦別姓にあまりメリットはないでしょう。反対する人が多い点からも、選択的夫婦別姓の導入は避けたほうが賢明です。

*1:民法第750条|e-Gov 法令検索