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広陵高校のいじめ問題|加害生徒が被害生徒の親族を告訴した理由

2025年夏に広陵高校の野球部で、先輩部員の後輩部員に対するいじめが問題となりました。しかし当該問題について、加害生徒側が被害生徒を訴えるという事案に発展しています。

この記事では、加害生徒が被害生徒を告訴した理由について解説します。法律や学校問題を詳しく学びたい方は、ぜひ参考にしてください。

 

広陵高校のいじめ問題とは

野球の強豪校で知られる広陵高校ですが、2025年夏の甲子園ではいじめ問題を理由に途中辞退となりました。具体的には寮のルールを破ってカップラーメンを食べた1年生部員に対し、先輩部員が暴力や性強要を働いた疑いが持たれています。

被害生徒は広陵高校を退学し、別の学校に転校したとのことです。しかし被害生徒の親族が、いじめの事実を加害生徒の個人情報も含めて投稿しました。

この投稿をきっかけに、加害生徒の氏名などの情報がSNSで拡散されていきます。こうして広陵高校のいじめは社会問題となり、ニュースでも取り上げられる事案となりました。

 

加害生徒が被害生徒を告訴

2025年の甲子園はすでに閉幕していますが、加害生徒が被害生徒を告訴したことが話題となっていました。このニュースを見て、なぜいじめの加害者側が訴えられるのか疑問に感じる方もいるでしょう。ここでは、告訴の仕組みを詳しく解説します。

告訴=訴追を求める行為

告訴とは、犯罪の被害者が捜査機関に対し、容疑者の訴追を求める行為です。逮捕や書類送検された容疑者を、検察官が裁判にかけることを訴追と呼びます。

容疑者を裁判にかける際には起訴する必要がありますが、この権限は検察官のみが持ちます。しかし検察官もすべての事件を把握しているわけではないため、被害者側から起訴するように求めることも可能です。

犯罪によっては、被害者からの告訴をきっかけに捜査が進むものもあります。当該種類を親告罪と呼ぶため、併せて押さえておくとよいでしょう。

加害生徒側が告訴した理由

今回の事件で加害生徒が告訴した理由は、被害生徒の親族の行為が名誉毀損罪に該当すると判断したためです。名誉毀損罪とは、人を公然と事実を摘示して、名誉を毀損する犯罪を指します。

たとえばAがインターネットを利用し、「BはC子と不倫していた」と投稿しました。この投稿が広まった場合、Bは不特定多数から「不倫する人間」と認識されてしまうでしょう。したがってAには、名誉毀損罪が成立する可能性があります。

また話を聞くところによると、今回の拡散をきっかけに進路にも少なからず影響が及んでいるようです。そもそもいじめ問題を起こすほうも悪いとはいえ、裁判所は名誉毀損についてフラットな視点で裁く必要があります。

加害生徒側は、自身の名誉を毀損されたとして告訴しました。今後は捜査機関が事件を細かく調べ、起訴するかどうかを判断します。

民事訴訟も検討している最中

告訴の提出は、あくまで刑事訴訟上の手続きになります。加害生徒側は、刑事訴訟だけではなく民事訴訟も検討しているとのことです

民事訴訟は原告と被告が、損害賠償を巡って争う裁判を指します。一般人同士が争う訴訟と考えればわかりやすいでしょう。

とはいえ民事訴訟の場合、基本的に未成年者が訴訟行為をするのであれば、法定代理人によらなければなりません。未成年者は、原則として訴訟無能力者と法律でも定められているためです*1

一方で刑事訴訟は、検察官と被告人が裁判で争います。民事訴訟と刑事訴訟は仕組みが全く異なるため、しっかりと区別できるようにしましょう。

 

加害生徒側が告訴できる理由

ニュースを見た方からすると、いじめ問題の加害生徒が告訴するのはおかしいと感じるかもしれません。しかし法律上は、告訴の要件は満たしています。ここでは、加害生徒に告訴できる理由を詳しく見ていきましょう。

名誉毀損の要件を満たしている

加害生徒が告訴できる理由は、名誉毀損の要件を満たしているためです。先程も説明したとおり、名誉毀損は「公然」「事実の摘示」「名誉毀損」が条件となります。

事実の摘示については、その内容が嘘かどうかは問いません。つまりいじめ問題が事実であっても、加害生徒としてSNSに投稿する行為は名誉毀損罪に値する恐れがあります。

とはいえ現状では、あくまで構成要件を満たしているだけです。告訴したからといって、必ずしも起訴される、あるいは有罪判決が下されるとは限りません

告訴の要件を満たしている

告訴できる者を告訴権者と呼びますが、特に年齢制限は設けられていません。したがって未成年者でも、問題なく捜査機関に対して告訴することが認められています。

また告訴期限は、犯人を知った日から6カ月以内です。今回の拡散行為が見られたのは8月頃であり、加害生徒がこの事実を知ったのも8月頃と推測できるため、告訴期限の観点でも特に問題ありません。

 

裁判ではどちらが勝てるか

加害生徒の告訴のニュースを見て、裁判はどちらが勝つのか気になる方もいるでしょう。ここでは刑事裁判と民事裁判に分けて、裁判の動向を推測します。

告訴を取り下げたら捜査できない

まず重要なポイントとなるのが、加害生徒側が告訴を取り下げるかどうかです。刑事訴訟法では、告訴を一度取り下げたら二度と告訴できないと規定されています。

何回も告訴できてしまうと、被疑者側に著しい負担を与えるからです。特に名誉毀損罪は親告罪であるため、取り下げた時点で捜査は終了します

反対に考えれば、被害生徒の親族は示談という形で告訴を取り下げてもらうように話を進めるかもしれません。示談金は、場合によって50万〜100万円に達することもあります。

起訴される可能性もある

加害生徒側が告訴を取り下げないのであれば、検察官の起訴するかどうかの判断に委ねられます。ここで争点となるのが、今回の拡散行為に「公益性」が認められるかです

名誉毀損罪は、公益を図ることが目的だった場合、例外的に無罪となります。たとえば通り魔が捕まっていないとき、市民の安全を守るために犯人の姿を拡散する行為は、「公益性」があると判断される可能性が高まります。

一方で「加害生徒に罰を与えたかった」という趣旨であれば、「公益性」は認められにくいでしょう。いじめについては100%加害生徒に非がありますが、拡散行為とは分けて考えなければなりません。

起訴されたら高確率で実刑となる

検察官が起訴したら、高確率で有罪判決が下されます。検察官は有罪になると確信を持てなければ、基本的に起訴しないためです。

名誉毀損罪が成立すると、被告人は3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金に処されます。とはいえ初犯であれば、執行猶予付の罰金刑に処される可能性が高いでしょう。

とはいえ有罪判決が下されるのは、あくまで検察官が起訴した場合です。示談交渉の余地も考えれば、ここまで裁判が進む確率は低いといえます。

民事訴訟で原告が勝訴することも

たとえ刑事裁判で起訴されなかったとしても、民事訴訟で加害生徒側が勝訴する可能性もあります。民事訴訟は、刑事裁判とは別に手続きが進むためです。

ただし刑事裁判で被害生徒の親族が示談に応じるのであれば、民事的にも和解の方向に持っていくかもしれません。裁判外の和解が成立したら、裁判が行われないまま解決となります。

 

いじめ問題の一番の課題

まず前提として、いじめ問題について非があるのは加害生徒です。たとえ下級生が寮の規則を破ったとしても、相手を傷つけるのは当然ながら許されません。

とはいえ被害生徒側も、法的な手続き以外の方法で仕返しする行為は、私刑となってしまいます。正当防衛や緊急避難に該当しない場合は、原則として自救行為をしてはいけません。

ただし学校のいじめ問題について、加害生徒側への罰則がほとんどないのも問題です。加害生徒側に何のペナルティもなければ、被害生徒だけが追い込まれてしまいます。

本当の意味でいじめ問題を解決するには、きちんと加害生徒側を罰する規定も必要となるでしょう。いじめ問題について、法律上の問題として処罰できるような社会が望ましいと筆者は考えています。

*1:民事訴訟法第31条|e-Gov 法令検索