行政書士試験や公務員試験の民法の勉強をしていると、権利能力なき社団という言葉を目にすると思います。頻出分野ではないものの、試験範囲に含まれるので無視することはできません。
この記事では、行政書士試験および公務員試験に一発合格した筆者が、権利能力なき社団を解説します。内容がいまいちわからない方は、ぜひ参考にしてください。
権利能力なき社団とは
権利能力なき社団とは、法人格を持たない団体のことです。団体として活動はしているものの、法人ではないので権利に制限がかかります。
主な具体例が大学のサークルやPTAです。ここでは似たような性質を持つ団体等と見比べて説明します。
法人との違い
権利能力なき社団と法人との違いは、法人格があるかどうかです。法人は、法人格が与えられて初めてその名称がつきます。法人格を持つには登記が必須であるほか、行政庁から許認可が必要な場合もあります。
一方で権利能力なき社団は、法人格が与えられていません。法律上は法人とはいえず、団体は契約の主体になれないといった特徴があります。
組合との違い
組合とは、当事者たちが共同の事業を営むべく、契約によって成立する組織です。設立には、最低2人以上の組合員を必要とします。
権利能力なき社団との主な違いは、財産にかかる権利や責任の考え方です。権利能力なき社団の場合、財産は団体で管理します。つまり「総有」となるため、個人が自分の持分権に従って権利を行使することはできません。
一方で組合は、財産を「合有」という形で管理します。持分を譲渡したり、財産を分割請求したりするのは認められませんが、組合を脱退するときに持分の払戻請求はできます。
債務の責任についても、権利能力なき社団は構成員個人が責任を負わないのに対し、組合の組合員は負うのが特徴です。権利能力なき社団も組合も重要であるため、行政書士試験や公務員試験の勉強では両方覚えないといけません。
任意団体との違い
権利能力なき社団は、任意団体として紹介されることもあります。任意団体は行政書士試験ではほとんど出てこないワードですが、こちらも同じく法人格を持たない団体を指します。
これらを分けない考え方もありますが、あえて違いを挙げるとすれば、権利能力なき社団の要件を満たしているかどうかです。任意団体はより広い概念で存在しており、その一種として権利能力なき社団があると覚えればよいでしょう。
権利能力なき社団の要件
権利能力なき社団には、大きく分けて4つの成立要件があります。
- 団体として組織を備えている
- 多数決の原則が採用されている
- 構成員が変更しても団体が存続する
- 代表の方法・総会の運営・財産管理等の主要な点が確定している
これらの要件を満たしており、なおかつ法人格を有さないのが条件の一つです。
権利能力なき社団の権利・責任
権利能力なき社団は、権利や責任のあり方も法人や組合とは異なります。民法にもさまざまな手続きがあるので、個別ごとにどういった権利・責任があるかをまとめます。
権利能力なき社団の財産
まずは財産の扱い方について解説しましょう。先ほども説明しているとおり、権利能力なき社団の財産は総有的に管理しなければなりません。したがって構成員は、持分権や分割請求権の主張はできないとされています。
この影響は、構成員の一人に対する債権者にも及びます。仮に債権者が財産を差し押さえようと思っても、権利能力なき社団で総有的に帰属している部分には手を出せません。団体として強固に管理されていると考えればイメージしやすいでしょう。
不動産所有と登記の関係
権利能力なき社団が不動産を取得しても、団体名義での登記はできません。基本的に当該社団は、私法上の権利義務主体にはなれないためです。
加えて構成員の中から1人選出し、代表者の肩書で登記することも認められません。結局のところ、代表者が権利能力なき社団の代わりになっているにすぎないからです。
不動産登記したいのであれば、構成員全員の受託者という地位で個人の名義にする必要があります。また代表者ではない構成員個人の名義にすることも可能です。要するに団体ではなく、個人での登記が必要になると覚えてください。
訴訟を提起する際の手続き
民事訴訟法第29条では、代表者の定めがある権利能力なき社団は団体名で訴えたり、訴えられたりすることができると規定されています。
平成26年2月27日の最高裁判例では、不動産の登記名義人に対し、構成員個人の名義として所有権移転登記を求める訴訟の原告適格を有すると判旨されました。
行政書士試験の内容としては、少々深入りしすぎているかもしれません。しかし司法試験へのステップアップを考えている人は、こちらの内容も併せて勉強したほうがよいでしょう。
権利能力なき社団の債務
権利能力なき社団が、団体の財産の取引において債務を負ったとしましょう。この責任については、構成員が債権者に対して個人的に責任を負うことはありません。財産と同じく、責任に関しても総有的に帰属するためです。
また代表者が取引した場合でも、代表者個人は責任を負いません。あくまで社団財産として対応する形となります。
権利能力なき社団の勉強ポイント
権利能力なき社団は、民法の中でも範囲があまり広くありません。覚える内容もそこまで多くないので、きちんと勉強すれば正解できる分野です。
しかし苦手意識を持ってしまうポイントとして、出題頻度がそこまで高くない点が挙げられます。民法は全部で1050条もあり、行政書士試験の中でも範囲が非常に広いです。ほかの分野に気を取られるあまり、権利能力なき社団の内容を忘れてしまう人もいるでしょう。
この範囲のみをじっくりと勉強するわけにはいきませんが、過去問や問題集を使って定期的に復習することが大切です。