中学校の公民でも習う、我が国の生存権において欠かせない判例の一つが朝日訴訟です。しかし名前は聞いたことがあるものの、事件の内容を思い出せない人もいるでしょう。
この記事では、高校生や大学生に向けて朝日訴訟をわかりやすく解説します。高校の政治経済を勉強されている学生は、ぜひ参考にしてください。
朝日訴訟とは
朝日訴訟は1957年(昭和32年)に、生活保護を受けていた朝日茂さんが厚生大臣に起こした訴訟です。憲法第25条の生存権において重要な裁判といえます。ここでは朝日訴訟の内容に加え、生存権の実態も説明します。
朝日さんの暮らし
朝日さんは結核を患っており、岡山県の療養所で毎日を過ごしていました。国からは毎月600円の生活扶助(日用品費)、給食付きの医療扶助を受けています。
ちなみに昭和32年頃の600円は、今でいうと約2万3000円程度と考えてもらってOKです。貨幣価値が違うので単純に比較できないものの、当時は最高金額として設定されていました。
一方で朝日さんは、実の兄から毎月1500円の仕送りを受けるようになります。そのため月600円の生活扶助は打ち切りとなり、医療費の一部は朝日さんが負担することになりました。その対応を不服に感じた朝日さんは、月600円の扶助が生存権の規定に照らして違法だと、厚生大臣相手に訴訟を起こします。
日本に生活保護がある理由
学生の皆さんも、生活保護という言葉は聞いたことがあるはずです。中には実際に両親が生活保護を受給しており、生活資金となっている人もいるかもしれません。
日本国憲法第25条には、「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を送る権利」を保障しています。最低限度にもさまざまな考え方があるものの、誰もが人間らしく生きられることを憲法は認めているわけです。
しかし私たち人間は、食料がなければいずれ死亡してしまいます。衣服や家がなければ、夏の暑さや冬の寒さに耐えきれず命を落とす可能性もあります。
衣食住を手に入れるには、お金が欠かせません。とはいえ全員が健康であり、仕事ができるとは限らないでしょう。そこで経済的なサポートをし、人間らしく生きられるようにするのが生活保護の目的です。
朝日訴訟と最高裁の判例
朝日訴訟について、最高裁判所はどのような判決を下したかを解説します。すでに知っている人もいるかと思いますが、通常の裁判は地方裁判所か簡易裁判所からスタートします。
しかしこれらの裁判所が下した判決に納得がいかなければ、争っている両者から控訴することで、高等裁判所にて再び争われます。さらに高等裁判所にも納得いかなければ、上告して最高裁判所で争うのが基本的な流れです(三審制)。
ここでは最終的な争いである、最高裁判所の判断を見ていきましょう。
朝日さん側が敗訴した
結論から述べると、今回の事件では訴えを起こした朝日さん側が敗れました。その要因は、最高裁判所で争っている間に朝日さんが亡くなってしまったためです。
遺族側は、本人が死亡しても権利を相続して裁判を続けたいと求めました。しかし生活保護はあくまで本人の権利であり、性質的にそれを相続するのはふさわしくないと判断されます。そのため半ば中断される形で、裁判は幕を閉じました。
最高裁判所は判決も下した
途中で終了となった裁判でしたが、最高裁判所は念のために判決も下しました。特に最高裁判所が重視したのは、生活保護は憲法の生存権を守れていれば問題ないことです。
確かに憲法は最低限度の生活を与えるのを、国の責任としています。しかし何をもって最低限度の生活とするかは、厚生大臣が決めてよいと判断しました。
もちろん厚生大臣の判断が、生活保護法をあまりにも無視したものであれば、裁判所側に違法と言われることもあります。ただし朝日訴訟に関しては、違法とは断定できないと結論付けたのです。
日本の生活保護の実態
生活保護を受けていたといっても、具体的にどのような仕組みなのかを理解できない人もいるでしょう。ここでは日本の生活保護について詳しく説明します。
生活扶助
生活保護の中でも、一般的にイメージしやすいのは生活扶助でしょう。こちらは朝日さんも支給を受けていましたが、食費や衣服費、光熱費などといった日用品に対するお金の支給を指します。生活扶助については、支給対象者の暮らしをみながら個人ごとに金額が算定されます。
住宅扶助
賃貸アパートに住むとなれば、当然ながら家賃をオーナーに支払わないといけません。生活保護の住宅扶助は、アパートの家賃に使うお金を支給するのがポイントです。
とはいえ生活保護の受給者が、何十万円もする賃貸物件に住めばぜいたくしていると考えられてしまいます。そのため住宅扶助に関しても、自治体ごとに上限が設定されています。
教育扶助
教育扶助は、生活保護世帯の子どもが義務教育を受けられるように支給されるお金です。日本国憲法第26条では、教育を受ける権利について保障されており、義務教育は無償となっています。
ただしあくまで無償となるのは授業料であり、小中学校9年間の義務教育を受けるにはさまざまな費用がかかります。誰もが不自由なく学校に行けるよう、サポートするのが教育扶助の役割です。
医療扶助・介護扶助
朝日さんも対象となっていましたが、医療扶助も生活保護を支える重要な要素の一つです。こちらは直接医療機関に支払われ、本人が医療費を負担することはありません。
併せて介護施設で暮らす人に関しては、介護扶助が適用されるケースもあります。こちらも医療扶助と同様に介護施設へ直接支払われるので、本人の口座に振り込まれるわけではありません。
その他の扶助
ここで紹介した種類以外にも、生活保護にはさまざまなケースに合わせた扶助が存在します。例えば出産をする場合、あらかじめ定められた範囲内で出産費用が支払われます。こうした生活保護の実態を知っておけば、朝日訴訟もイメージしやすくなるでしょう。
朝日訴訟を勉強するうえで
今回は政治経済を勉強する高校生や大学生に向けて、朝日訴訟の解説をしました。私もかつて学生だった頃は、朝日訴訟の名前を知っていても意味があまり理解できませんでした。
政治経済は、実際に社会へ出てみないと理解できない部分も少なくありません。朝日訴訟についても、生活保護の内容がわからないと正しく理解するのが難しいでしょう。
朝日訴訟は、生活保護と憲法の生存権を勉強するうえでは欠かせない内容です。教科書やテキストで見たときは、ぜひ私の記事を思い出してください。