父母が子を認知する方法には、大きく分けて任意認知と強制認知があります。しかし法律をこれから勉強するにあたって、両制度の違いが分からない人もいるでしょう。
今回の記事では、行政書士試験と公務員試験に合格した筆者が、任意認知と強制認知の違いをわかりやすく解説します。実生活でも役立つ知識なので、ぜひ読んでみてください。
認知とは
認知とは、婚姻関係にない子(非嫡出子)を自分の子と認めることです。民法では父または母ができると規定されています(第779条)。認知の方法には大きく分けて、任意認知と強制認知(認知の訴え)の2種類があります。
母親と認知の関係
原則として、母親が子を認知する必要はありません。自分のお腹から生まれており、普通であれば自身の子であると自然に認知できるためです。
しかし民法には、父親だけではなく母親も認知できると記されています。その理由は出生届が提出されず、捨て子となってしまった子どもの権利を守るためです。
例えば母親がトイレで赤ちゃんを生み、近くの公園に遺棄しました。たまたま近くを通りかかった人に助けられ、捨て子として保護されます。
その後、公園に遺棄したことを後悔した母親が、自分でしっかりと育てようと決めました。こういったケースでは、認知の手続きが必要になる可能性もあります。
ただし上記の例はレアケースであり、実際には母の認知は不要と扱われるのが一般的です。したがって行政書士試験レベルでは、母と子は出生の段階で親子関係が認められると押さえてください。
認知能力について
子どもを認知するには、認知能力を有していないといけません。この認知能力については、基本的にほどんどの人に認められています。
成年被後見人や未成年者が子を作ったケースでも、法定代理人の同意を得ないで認知をすることが可能です。ただし認知能力を持つには、意思能力が必要です。泥酔状態に陥るなど、自分の意思を表明できない状態の人は認知が認められない可能性もあります。
任意認知と強制認知の違い
任意認知と強制認知について、方式や流れは全くもって異なります。定義からすでに異なるので、区別する際に困ることはほとんどないでしょう。任意認知と強制認知には、どのような違いがあるのかを解説します。
任意認知
任意認知とは、市町村役場に認知する旨を届け出るか、遺言で行う方法です。たとえ父や母が未成年者または成年被後見人であっても、法定代理人の同意は必要ありません。身分行為として、認知する人の意思は最大限に尊重されます。
一方で場合によっては、母(妻)または成年の子(直系卑属)の承諾が必要となります。その条件について細かく見ていきましょう。
母(妻)の承諾
すでに出生している子を認知する分には、原則として母(妻)の承諾は必要ありません。一方で承諾を必要とするのは、子がまだ胎児である場合です。
胎児には権利能力が認められず、人が当然に持つ権利を有しません。父親を選ぶ権利に関しても、基本的には母親に委ねられているわけです。
なお権利能力のない胎児ですが、例外的に相続権は認められます。そのため相続で有利になるときは、父親の認知を承諾するのがよいでしょう。とはいえ相続は借金も引き継ぐため、負債が多い父親であれば承諾しない方法も検討したほうが賢明です。
成年の子(直系卑属)の承諾
子が成年に達したとき、その子の承諾を必要とします。子の立場からしても、今まで何をしていたか分からない男に、「父親だ」と言われたところで納得できないでしょう。
加えて勝手に認知されると、子育てを放棄した人間が扶養に入ろうとするなど、害が発生する恐れもあります。そのため子自身が自分の父親だと認めない限りは、認知できません。
すでに子が亡くなったとしても、直系卑属(子・孫など)がいるときは認知することは認められます。しかし直系卑属が成年であれば、その人から承諾を得ないといけません。
認知の無効または取消し
たとえば本当は父親ではないのに、妻に急き立てられて認知をしてしまったというケースもあります。この場合に認知の効果を失わせるには、7年以内に無効の訴えを提起しなければなりません。それぞれの起算点を下記にまとめます。
提訴できる者 | 出訴期間 |
---|---|
子または法定代理人 | 認知を知ったときから7年以内 |
子の母 | 認知を知ったときから7年以内 |
認知をした者 | 認知したときから7年以内 |
一方で無効事由がないのであれば、原則として認知をした者は取消しできません。取消しを認めてしまうと、親子間の法律関係が不安定になるためです。一方で配偶者からの詐欺や強迫に基づいて認知したときは、取り消せるかどうかは争いがあります。
強制認知
強制認知とは、相手を訴えたうえで認知させる方法です。任意認知との違いとして、裁判所で争う点が挙げられます。そこまで覚える内容はありませんが、仕組みを簡単に押さえてください。
提訴権者は子・直系卑属・法定代理人
認知の訴えを提起できる人物は、子と直系卑属またはこれらの者の法定代理人です。ただし子の嫡出推定がなされているときは、嫡出否認をされない限りは提訴できません。そのまま手続きが進めば、自動的に父子関係が判明するためです。
一方で子が非嫡出子かつ胎児の場合、母は胎児の代わりに訴えを起こすことは認められていません。非嫡出子が成年になった母も、同様に提訴権が失われます。
出訴期間は2パターン押さえる
認知の訴えの出訴期間については、父が生存しているパターンと死亡したパターンを押さえる必要があります。父が生存しているときは、基本的にいつでも提訴することが可能です。
しかし父が死亡したときは、死亡日から3年以内に提訴しなければなりません。このケースでは相手がすでに亡くなっているため、検察官を被告に訴えます。死亡後まで認知の訴えを起こすメリットは、相続権を取得できることです。
準正とは
認知の範囲を勉強するうえでは、準正も覚えておきたい用語の一つです。準正とは、非嫡出子に嫡出子の身分を与える制度を指します。ここでは嫡出子と非嫡出子の違いにも触れつつ、準正の仕組みについて説明します。
嫡出子と非嫡出子の関係
これまで何度も説明しているとおり、嫡出子は婚姻関係にある夫婦から生まれた子です。一方で非嫡出子とは、婚姻関係にない夫婦から生まれた子を指します。
改正前の民法では、非嫡出子の相続分は嫡出子の2分の1となっていました。しかし最高裁の判例により、この条文が憲法に反すると考えられ、今はどちらも同じ相続分です。そのため現代の相続に関しては、嫡出子と非嫡出子の間に差がありません。
とはいえ嫡出子と法的に認められなければ、子の相続権を証明するのは難しくなります。戸籍に父の名を残すためにも、準正が依然として重要になるわけです。
婚姻準正と認知準正
準正には大きく分けて、婚姻準正と認知準正の2種類があります。これらを区別するポイントは、婚姻と認知のどちらが早くなされるかです。
婚姻準正→認知後に婚姻
婚姻準正は、子を認知してから父母が婚姻するパターンを指します。たとえば父母が子を生みつつも、事実婚としてしばらく過ごしていました。その後正式に夫婦となった場合、婚姻準正が成立します。
婚姻する前に認知した子が死亡しても、嫡出子としての身分を取得します。すでに成人に達して孫を産んでいたとき、代襲相続を発生させる必要があるためです。
認知準正→婚姻後に認知
認知準正は、婚姻している父母が子を認知するパターンです。デキ婚が主な例ですが、母が出産したあとに婚姻をして、その後に子を認知する方法が該当します。
民法では、認知準正において「認知の時から」嫡出子の身分を持つと規定されています。しかし通説としては、嫡出子の身分を得るのは婚姻したタイミングです。
仮に認知時で判断すると、父が認知の手続きを怠って死亡した場合に不具合が発生します。あとから強制認知で嫡出子と認められても、婚姻から認知時までは非嫡出子扱いです。
そうなると婚姻準正と比べても、嫡出子の認定されるタイミングにズレが生じてしまいます。以上が婚姻準正と同じく、婚姻時に嫡出子と判断する理由です。
認知制度の違いを理解しよう
民法で規定されている認知制度には、大きく分けて任意認知と強制認知の2種類があります。勉強するうえでは、両者の違いをしっかりと理解しなければなりません。
認知の分野では、準正も押さえておきたい制度の一つです。婚姻準正と認知準正の2種類があるため、これらの違いも併せて勉強する必要があります。
行政書士試験の勉強において、民法の親族編はなかなか手が付けられない人も少なくないでしょう。物権や債権ほどではありませんが、狙われる可能性はあるので一度は目を通してください。